数万キロの旅へ―サケの稚魚が下る小河川「鶴居芦別川」

北海道で最もポピュラーな魚と言えば、やはりサケであろう。
長年のふ化放流事業によって毎年多くのサケが生まれ故郷の川に帰ってくるのだが、その数万キロとも言われる大航海の出発点は本当に小さな川だったりする。その一つが鶴居村を流れる鶴居芦別川だ。大河川の多い釧路川水系の中では本当に小さな川だが、阿寒連山のふもとに湧き出す澄んだ水を集めて流れを作り、幌呂川、雪裡川を経て釧路川に合流している。この川の上流にはさけ・ますふ化場があり、そこでふ化したサケの稚魚は春になると川を下って行く。湧水の川は年間を通して水温が安定し、水質はもちろん酸素も豊富なので稚魚のふ化や成長には好都合なのだ。


川の付近にクルマを停めスノーシューを履いて近づいてみると、そこかしこの湧水から幾重にも流れる小川の浅瀬に、体長4~5センチの稚魚が群れをなしているのがよく見える。体にはまだ幼魚の特徴であるパーマークと呼ばれる斑紋があり、食卓に並ぶあの白銀のサケとは随分印象が異なる。
稚魚たちは冷たい水の中でも本当に元気だ。中には水面に落ちた小枝を目がけて猛然とアタックするものもあり、幼いながらも着実に成長しているようで微笑ましい。

親を知らない彼らもこの小川を徐々に下り、やがて太平洋の荒波にもまれる長旅を始めるのだ。
この大集団の中から生き残ったほんのひと握りの成魚が、数年後にこの川に戻ってくるまでの間、どれだけのドラマがあるのだろうと思うと、何だか感慨深くじっと水面を見つめてしまう。
自分たち人間も、その小さな逞しさを少しは見習わなければならないかも知れない。

鶴居芦別川は鶴居村市街の南西部を流れており、タンチョウの飛来地で有名な鶴見台からも程近く、この川も水場として飛来するタンチョウの足跡が多く見られる。また、有料だが美味しい湧水を汲んで持ち帰れる給水所も付近にあるので、立ち寄った際に利用してみてはいかがだろう。

GoogleMap 鶴居芦別川

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