2016年3月26日、北海道新幹線が開通したちょうどその日、そこから北へ約430km離れた名寄市に天塩弥生駅が開業しました。
天塩弥生駅には隣駅はありません。線路もありません。ここは列車が通る駅ではなく、食堂を併設した宿なのです。なぜ宿の名前が駅名なのか、そこにはどんな人が集まるのか、鉄道好きではなくてもついつい寛いでしまう居心地の良さの秘密を探ってきました。
旅が大好きなオーナーご夫婦
▼素敵な笑顔で迎えてくれるおふたり
宿のオーナーは、富岡達彦さん、由起子さんご夫妻。しかし頂いた名刺を見てみると、そこにある肩書はオーナーではなく、首席助役の文字。そして奥さんの由起子さんが、駅長だそうです。
自己紹介の時点で心を掴まれてしまうほどユーモアたっぷりのお二人は、もともと北海道が大好きな旅人さん。こんにちは!と旅をしていた旅人時代から、今ではおかえりなさい、いってらっしゃい!と、旅人たちを迎え入れて笑顔で送り出す、そんな立場に替わったそうです。
お二人とも旅人だけれど、それぞれ違った形の旅をしていたそうなので、そんなお話を聞きながら次の目的地を決めるのもおもしろいかもしれません。
駅に泊まれるような宿
▼職人さんたちが様々な知恵を出し合って再現した天塩弥生駅
“天塩弥生駅”という名前の通り、宿はまさに駅舎のような見た目をしています。どうして駅舎をモチーフにしたかというと、達彦さんは元々国鉄の職員さんでした。そしてこの土地はかつて、“天塩弥生駅”が実在していたところなのです。天塩弥生駅は、深川と名寄を結ぶ旧国鉄(廃止時JR北海道)深名線の駅で、1995年9月に廃駅になりました。
達彦さんはこう話します。
「あったところにあったものを戻してあげる。その時に、その土地の歴史や文化を掘り起こして放り込んであげる」
そんな想いを込めて、当時の駅舎を思い起こさせるような懐かしさ溢れる建物を、まったくの新築で復活させたのです。
見た目だけではない、駅へのこだわり
先ほどの言葉通り、ここ天塩弥生駅は、当時の駅舎を元あったところに復活させただけではありません。ただ列車に乗るための場所というだけではなく、駅が持っているもうひとつ大切な役割をも、蘇らせてしまったのです。
駅はかつて、住んでいる人々の寄り合い所のような役割もしていました。ご近所に住む人々が集ったり、お喋りしたり笑ったりする、交流の場でした。
達彦さん、由起子さんご夫妻は、旅をしていた時によくそういった場面に出くわしたそうです。地元の人の集まりの中に、どこからかやってきた異色な旅人が混ざり合い、一期一会の出逢いをする。そのように、人々の人生が凝縮された駅という空間が、生まれ変わって今でもここに存在しています。
▼駅の待合所のような共有スペース
旅人と地元の方の交流の場所
▼ほっとする手書きの食堂メニュー
天塩弥生駅は11時~14時の間、田舎食堂をやっています。駅長であるシェフの由起子さんが作る、心温まるお食事。
名物は、“日替わらない定食”。思わずクスっと笑ってしまうようなネーミングについつい目が奪われてしまいますが、こだわっているのはネーミングだけではなく、使っている食材にも秘密があります。それは、近くの農家さんで採れた食材を積極的に使っていること。
美味しい食事をいただけるだけではなく、「その野菜はご近所の○○さんのなんだよ」と作った方の想いやこだわりも合わせて聞くことができるので、より一層、ここでしか食べられない味を感じることができます。
さらに興味を持ってくれた方には、実際にその農家さんを紹介したり、農作業体験をしてもらったりするなど、地域の方々との関わりも積極的に、そしてより自然に、行っているそうです。
天塩弥生駅の進行方向
▼天塩弥生駅の除夜の鐘は、この踏切の音
「去年は奮発して踏切と腕木信号機を買ったんだよ」と笑って話す達彦さん。
宿には、鉄道好きの方でも納得してしまうほどの細かな仕掛けがたくさんあります。そして、鉄道に興味がなくても、思わず隅々まで見入ってしまったり、写真に収めたくなるような、好奇心をくすぐられるポイントがたくさん散りばめられています。将来は線路を敷いて、来てくれた人がわくわくするような鉄道のテーマパークにしたいそうです。
▼オリジナルのパロディ切符
▼思わず二度見してしまう看板
昔の駅舎の見た目は北海道の冬を越すには寒そうだけれど、宿の中は見た目からは想像できない温かさ。それは建物の構造はもちろん、仲の良いおふたりの笑顔が宿の中をぽっと照らしているからなのです。そんなお二人に会いに、是非北海道を散策してみてください!
所在地:北海道名寄市字弥生166-4
電話:090-8898-0397
宿泊料金:
一泊二食5,500円
一泊夕食 4,700円
一泊朝食4,300円
素泊まり3,500円
※学割、未就学児料金あり
田舎食堂:11時~14時