札幌市内には現在、南北線、東西線、東豊線の3路線の地下鉄が走っています。見た目は他都市の地下鉄と変わらない札幌市営地下鉄ですが、実はまったく違う部分があることをご存じでしょうか? それはタイヤで走っているということ。
なぜ札幌市の地下鉄はタイヤなのか、どのようなタイヤなのか、札幌市交通局にお聞きしてきました。
世界でも珍しいタイヤで走る地下鉄
地下鉄東西線の整備を手がける札幌市交通局高速電車東車両基地を訪ねました。
タイヤが使われている理由は、ズバリ騒音対策にありました。札幌市営地下鉄は、1971年(昭和46年)の南北線開通(北24条駅―真駒内駅間)がはじまり。平岸駅を越えた地点から真駒内駅までは地上高架を走ることになり、騒音を減らすためにタイヤが選ばれたのです。
そもそも地下鉄にタイヤが使われているのは珍しく、一般社団法人日本地下鉄協会から出版された『世界の地下鉄』によると、地下鉄が走る世界115都市のうち、ゴムタイヤを採用しているところはフランスやメキシコを含む12都市しかないとのこと。中でも札幌市営地下鉄は札幌方式と呼ばれ、独自の方式なのだそうです。
▼これが東西線の車両がつけているタイヤ
札幌市営地下鉄の3路線は集電方法や走行路面の材質などに違いがあり、タイヤのサイズなども違います。車体の下には2つの台車があり、ひとつの台車に走行輪4本と案内輪4本がついています。東西線は7両編成ですので、一編成で台車は14台、タイヤは走行輪、案内輪共に56本ずつになります。
▼左側の小さなタイヤが案内輪、右側の大きなタイヤが走行輪
台車には、モーターがついているM台車(駆動台車)とモーターがついていないT台車(付随台車)があり、M台車とT台車に付けられた走行輪はタイヤの交換時期が違うのだそうです。
ちなみに、M台車は20万キロメートル、T台車は26万キロメートル走行でタイヤ交換が行われます。つまり、東西線は年間でおよそ10万キロメートル走るので、M台車に使われた走行輪は約2年で交換されるというわけです。
▼倉庫には1年間で使う本数のタイヤが保管されている(上が走行輪で下が案内輪)
走行輪は走るためのタイヤです。一方の案内輪は、線路の真ん中に通っている案内軌条を挟むことで、方向を定めています。
▼下部の真ん中にある鉄板が案内軌条
走行輪はゴムのラジアルタイヤです。ちなみにサイズは幅が14.50インチで扁平率が75%で内径(ホイールのサイズ)が17.5インチ。重さはひとつが74.8kgで、アルミホイールを付けた状態だと101.9kgあるのだとか。案内輪はバイアスタイアで、幅が6.00インチ、内径が12インチ、重さは15.7kgあります。
▼車を乗っている人なら見慣れた表記が
案内輪には空気が入っていますが、走行輪に入っているのは窒素です。火災が起きた時に燃えづらいことと、内圧が変わりづらいことが窒素を使う理由です。
▼走行輪に入れる窒素が入ったボンベ
メンテナンスは、6日間に1回行う列検(列車検査)と3か月に1回行う月検査があります。列検はナットなどの打音検査と目視検査、月検査は内圧検査などが行われているとのことでした。
▼2編成分(計112本)の走行輪がすぐに使える状態で常に準備してある
実際のタイヤ交換作業を大公開!
取材時、ちょうどタイヤ交換を行うという話をお聞きしたので、実際の作業を見学させてもらいました。ここで簡単にタイヤ交換作業について説明しておきましょう。
①列車はタイヤ交換線に入ってきます
②車体を持ち上げてタイヤを地面から浮かします
③エアインパクトでナットを外します
④タイヤを外します
⑤エアダスターでボルト周りのゴミを払い、専用のトルクレンチで増し締めします
⑥ボルトの周りに油を塗ります
⑦新しいタイヤを装着します
⑧ナットを取り付けます
⑨エアインパクトでナットを締めます
⑩専用のトルクレンチで増し締めしてタイヤ交換終了です
【動画】タイヤ交換の様子
最後にゴムタイヤには必ず付きもののパンクについてお聞きしましたが、劣化によるパンクはまずないとのことでした。線路には「パンク検知装置」が設けられているので、危険はないそうです。
▼これがパンク検知装置。左右のタイヤの荷重を比べてその差でパンクを判断する
加速・減速性能に優れ、乗り心地がよく、騒音が少ないというゴムタイヤ方式。あまり見ることのない地下鉄の足回りですが、ちょっと気にして探ってみると、実にうまくできていることがわかります。こういうことを知っているだけで、地下鉄に乗った時の気分も違ってくるかもしれません。