幾重もの罠を掻い潜り 到達する悪魔の顔!白老町の秘境「社台滝」

北海道の滝を調べると、魅力的な滝が沢山ありますが、中には滝までの道のりが過酷なものも少なくありません。今回の滝は、「悪魔の滝」とか「ゾンビ滝」、「ムンクの叫び」などと呼ばれている「社台滝(しゃだいだき)」です。

この呼び名だけで興味津々、見てみたくなったわけですが、情報を集めるうちに滝までの道程が想定以上に過酷であり、装備の準備はもとより、天候に合わせた日程の調整も必要だと知ります。約1か月、天気図との睨めっこが続き、ついに数日続く晴れ予報。悪魔の顔の滝とはどのようなものなのか、期待と不安を胸に実際に行ってみました。

ルートと準備

白老町を走る国道36号線の苫小牧市との町境にある、「インクラの滝」という看板を曲がり、10kmほど林道を進むと、日本の滝100選に選ばれている「インクラの滝」への入り口に着きます。インクラの滝へはそこから1kmほどですが、現在は遊歩道が土砂崩れのため、立ち入り禁止になっています。

▼林道沿いにある展望台。奥にインクラの滝が見える

さらに林道を約5km進むのですが、その先にはゲートがあり、車両で進むには胆振東部森林管理署の許可が必要です。ゲートから先は倒木や雨裂などあり、途中で進めなくなる可能性があります。今回は、数カ所の雨裂をなんとか通過し、予定の林道終点まで行くことができました。

そこからさらに約4kmの遡行となります。悪魔との異名を持つ滝、その道程にも何が待ち受けているのか解りませんので、心して準備を進めます。

前回同様ヒグマ対策のため、鈴、深林香、音の出る玩具のピストルを持ち、さらにはいつもより多めの飲料水と携帯食を持ってスタートします。

悪魔の罠?その1

遡行を開始してすぐに川幅が広く高さ約1mの堰堤がある場所へ出ます。人工物を見るとちょっとホッとしますが、すでに10数キロ山の中ですので、気は抜けません。

足元を見ると動物の足跡が複数確認できますし、植物の枯れた蔓かと思ったら蛇だったりします。川幅が広く見通しが利くため、安心感がありますが、思いもかけない危険が潜んでいます。

▼誤って踏んだりしないよう注意

悪魔の罠?その2

堰堤を2つ越えると、川幅は徐々に狭くなり周囲は崖に挟まれる渓谷状となってきます。さらには大規模な崖くずれの後を数カ所、進むことになります。大きな岩や倒木が川の全面を塞いでおり、慎重にルートを選ぶとともに、浮石にも注意しながら進まなければなりません。

▼徐々に川幅は狭くなっていく

▼崖くずれの跡。安全なルートを選ぶ

悪魔の罠?その3

遡行開始から1時間30分ほどで、左に大きな柱状節理(岩体が柱状で、規則性のある割れ目のうち両側にズレのないもの)の岩壁が見えてきます。通称「カーテン岩」と呼ばれており、滝までの中間地点となります。

岩を眺めていると綺麗な形に見入ってしまい、しばらくの間立ち止まってしまいます。まさかこれもペースを乱す、悪魔の罠でしょうか。(笑)

悪魔の罠?その4

その後も青く輝く綺麗な水や、人影に驚き素早く逃げる魚影など、自然を満喫しながら進めるのですが、一気にその景色は変わります。苔が覆った3~6mほどの大きな岩が敷き詰められ積み重なり、行く手を阻みます。

大きな岩の間を縫うように水が流れていて、一つ岩を越えるたびにルートを探り、岩をよじ登り、先へ進めなければ戻って違うルートへ、という行動を繰り返しながら進みます。まるで迷路の中を進んでいるようで、5m進むのに10分かかる場所もあり、一気に進むスピードが落ちます。

上から悪魔が見下ろしている、社台滝

2時間ほど、大岩の迷路を進んでいくと、正面の木々の奥に崖をつたう白い筋が見えてきます。

そこからさらに30分、大岩と格闘して進むと私の疲労困憊した姿を、あざ笑うかのように上から見下ろす悪魔の顔が見えてきます。

遡行すること3時間30分、遂に悪魔の顔を持つ社台滝を拝むことができました。

「悪魔の顔」とか「ゾンビ岩」、「ムンクの叫び」と称されるのは、その岩肌に開く穴と陰影によるもので、その様相を表すには確かに的確な表現です。

高さは約100m、幅も80mほどある巨大な岩に、細く白い筋を作って岩に絡まり落ちる水。これが涙なのか、血液なのか、何かしらの液体のように見えて、岩の表情に動きを与えます。見る人によって苦悶の表情に見えたり、叫んでいるように見えたり、笑っているように見えたりと、様々なのでしょう。これもまた、人の内面を探る罠なのかもしれません。そう考えると、恐怖と共に畏怖の念も感じます。

▼滝直下。その圧倒的な高さに言葉を失う

▼滝壺はなく、水はいくつもの筋となって崖を伝い落ちてくる

▼振り返ると、登ってきた川筋が見渡せるが、帰りが不安になる

▼見ていると水の音の中に叫び声が混ざって聞こえてくるように感じる

スタート地点では幅が広く、進むうちに渓谷が深くなり最後は巨石だらけ。上流、中流、下流という川の形状を極端な形で楽しめますが、行きは3時間30分、帰りは休みなしで2時間30分かかることからも、慎重な計画と準備が必要です。

【動画】動画で見る悪魔の顔。社台滝