2016年3月、北海道十勝地方の中心都市である帯広市に、新しいホテルが誕生しました。ホテルの名前は、アイヌ語で「原野」という意味を持つ「ヌプカ」。「HOTEL NUPKA(ホテルヌプカ)」です。
このホテル、普通のホテルとはちょっと違うコンセプトを持ち、誕生の経緯もちょっと面白いんです。一体どのような思いで作られたホテルなのか、その物語を紐解いていきましょう。
十勝の魅力を世界に発信したい!
▼ホテルヌプカの外観
数年前の東京。十勝地方の素材を扱うレストランに、月に一度だけ集まる十勝出身者たちがいました。彼らの話題は、やはり故郷十勝のこと。いつしか、十勝の魅力を国内のみならず世界に向けて発信したいと考えるようになりました。
そこで思いついたのが、十勝を舞台に短編映画を作るというアイデアでした。クラウドファンディングで資金集めをしたりボランティアを募ったりして、2015年、映画は本当に完成してしまったのです。
▼ホテルのいたるところに日高山脈と十勝平野をモチーフにしたロゴが
映画『マイ・リトル・ガイドブック』は、台湾の旅行会社で働く女性が十勝に派遣され、地元の人々と触れ合う中で成長していく物語。台湾の人気タレントであるウー・シンティさんを主演に作られ、今でもYouTubeで無料配信されています。
▼ホテルヌプカの共同シャワールーム
映画制作がまさに着々と進行していた頃、東京の十勝出身者たちはふと考えました。完成した映画を見て「十勝に行ってみたい!」と思ってくれた人をどうすればいいんだろう、と。せっかく訪れてくれるのだから、そこから新しい流れをつくり出せないだろうか、と。
ちょうどそんな折、帯広駅から徒歩3分という立地で40年近く営業していた「ホテルみのや」が、2012年に閉館していたことを知るのです。
アイデアは、映画からホテルへと広がっていきました。日本全国、そして世界各国から訪れる人々と、地元の人々が交流できる「場」。そんなホテルを目指したいという思いが、ホテルみのやの所有者を動かしました。なんと「まちづくりのために生かしてくれるのなら」と土地と建物を譲り受けたのです。
十勝を訪れる人も、十勝に住む人も
さて、世界各国から訪れるゲストと地元の人が交流できるホテルとは、どのようなものなのでしょう。ホテルヌプカを覗いてみましょう。
▼ホテル1階のカフェ&バー「NUPKA」
ホテルの1階にはカフェ&バーが設けられています。地元の人も気軽に立ち寄りたくなるような、おしゃれで開放的な雰囲気が漂っています。
▼カフェ&バー側から見たホテルロビー
もちろん、ホテルの1階ですからエントランスとロビーラウンジもあります。カフェ&バーとの境を取り払い、宿泊客と地元の人が自然と交流できるように、テーブルや椅子の配置も工夫されているようです。
▼地元食材が並ぶカフェのショーケース
ここで滞在することが、自然や食など十勝の魅力あるコンテンツへの「気づき」につながるよう、いろいろなところにこだわりが見られます。ラウンジ用テーブルには地元木材が使われていたり、カフェのメニューにも地元食材を使用していたり。
▼見るからにおいしそうな洋朝食
朝食は、和洋2種類から選ぶことが可能です。十勝散策の前に、十勝の栄養をたっぷり身体に取り入れて。
▼ストーブ用の薪と貸し自転車
ホテルヌプカでは、自転車も貸し出しています。地元の人々とコミュニケーションを取りながら、まるで住んでいるかのように散策すれば、旅は一層味わい深いものになるはずです。
▼シンプルでナチュラルな色合いの客室
気になる客室は3タイプ。シングル、ダブル、そしてドミトリーです。
▼コンパクトにまとまったシングルルーム(EntapanoVRで撮影)
ドミトリーは男女別で、バンクベッドが8つずつ設置されています。
▼清潔感あふれるドミトリー
ホテルヌプカでは、地元の魅力をもっと知ってもらいたいという思いが高じて、ついにはクラフトビールまで企画してしまいました。北海道産大麦を100パーセント使用した「旅のはじまりのビール」です。
▼樽生で飲めるのはカフェ&バー「NUPKA」だけ
月イチで集まる同じ出身地の仲間が、地元十勝を世界に向けて発信したいと夢見たことが出発点となり、ひとつの映画が生まれ、ひとつのホテルまで誕生してしまいました。なんだか良くできたおとぎ話のようですが、おとぎ話と異なるのは、めでたしめでたしで終わってしまわないところ。これからもホテルヌプカを中心として、物語は続いていくのです。
【動画】すべてのはじまり「My little guidebook」
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