北海道は中頓別に、約75年間にわたって地元に愛されてきた老舗菓子店がありました。その店が事業継承することになり、リニューアルオープンを果たしました。受け継いだのは、札幌出身の20代のひとりの若者です。
弱冠20代の青年が、なぜ中頓別の老舗和菓子店をリニューアルオープンさせるに至ったのか……そこにはたくさんの偶然とドラマがあったのです。
3年間の短期移住のつもりが
物語は、生まれも育ちも札幌の19歳の中野巧都(たくと)さんが、大学受験を失敗するところから始まります。青年海外協力隊に憧れのあった中野さんは、偶然見かけた「地域おこし協力隊」の仕事に興味を抱きます。地域おこし協力隊の契約期間は3年間。短期移住のつもりで、中頓別町へ向かったのです。
▼現在の中野巧都さん
知らない場所で、何をすべきかも分からないまま、アルバイト経験しかなかった中野さんは地元の人々と話すことからはじめました。その他、役場の事務を手伝ったり、HPづくり、移住相談会への参加など、できることは何でもやりました。
そんな中、中頓別町内産の牛乳を使ったチーズの商品開発を手がけ、漠然と、自分でも商売をしてみたいという思いが芽生えたのです。すると偶然、地元の老舗菓子店「とらや菓子店」が廃業するにあたって後継者を探しているという話を耳にします。
▼とらや菓子店から受け継いだ「天北原野」
交流のあった商工会職員の紹介もあり、中野さんがとらや菓子店の事業を継承することに決まりました。ちょうど地域おこし協力隊の3年間の期限が過ぎようとするタイミングでのことでした。
▼とらや菓子店から受け継いだ「鍾乳洞もなか」
機材や器具もすべて譲り受けたものの、製菓に携わった経験も技術も皆無だった中野さん。まずは先々代から続く味をしっかりと守るべく、たくさんの失敗を重ねながら菓子作りに励みました。
▼とらや菓子店から受け継いだ「砂金物語」
努力の甲斐あって、とらや菓子店時代から広く認知されていた人気商品4品が、なんとか形にできるようになってきました。
▼とらや菓子店から受け継いだ「砂金ようかん」
しかし、ここからが中野さんにとって真の挑戦のはじまりでした。
昔ながらの味を守りつつ、新しいことも
▼とらや菓子店から、中野商店へ
とらや菓子店を新しく「中野商店」としてリニューアルオープンすることに決めた中野さん。
「リニューアルオープンするとなれば新しい商品が求められるし、新しいことに少しずつでもチャレンジしていかなければ、経営は難しい」と、考えました。
▼新しい「中野商店」のロゴ
そのため、店舗も可能な限り自らの手で改装し、店自体をモダンな雰囲気につくり変えました。また、洋菓子風にアレンジした生どら焼きを開発したり、クッキーの包装をスタイリッシュにしたりと、工夫を凝らしました。
▼生どら焼き(各税別270円)
いよいよ迎えたリニューアルオープン当日。中頓別町内からはもちろん、近隣の浜頓別町、猿払村、枝幸町など、たくさんのお客さんが来店しました。
しかし、その後も中野さんの試行錯誤は続きます。商品の在庫がなくなって2週間の臨時休業を余儀なくされたこともありました。スタッフ不足のため、安定して商品を供給できない、1日あたりの製造量が少ないなど、問題もまだまだ山積みです。
▼モダンに生まれ変わった店内
「リニューアルオープン時にたくさん来店していただいたのは、やはり先代のとらや菓子店が近隣町村を含む地域の皆さまに長年親しまれ、愛されてきたからだと思います」と語る中野さん。
現在、中頓別町には地元の若い子が集えるような店も少なく、アルバイトできるような店も多くはありません。だからこそ、地元の若い子たちに憧れてもらえるような職場にしたいと、中野さんは考えているのだそう。
「まだまだ若輩者ですが、少しずつ恩返しをしていきたいんです」と、最後に照れ笑いした顔が印象的でした。
2023年4月12日:店舗情報更新しました