ユキムシ、つまり「雪虫」は北海道民にとってなじみの深い「秋の風物詩」です。北海道民はこのユキムシの発生で、雪の降る季節を知ります。まもなく初雪が降り、冬が到来することを知るのです。
飛んでいる姿は雪のようにロマンチックですが、一方で邪魔者扱いされているのも事実。北海道民の生活と切っても切り離せない雪虫(ユキムシ)とは何なのか、ご紹介します。
雪虫(ユキムシ)ってなに?
さて、このユキムシ、いったいなんだべ?といいますと、はっきりいって「虫」です。おなかのところに白い綿のようなふわふわをつけて飛んでいます。実はこれ、アブラムシの仲間です。タマワタムシ科に属するアブラムシはすべて「ユキムシ」と呼ばれます。
中でも大きい一般的な種類は「トドノネオオワタムシ」と呼ばれます。大きな白いふわふわ(分泌物)をつけた体長約5ミリの虫で、優雅に飛行しているようにも見えます。そんなムシですが、北海道民はワタムシともアブラムシとも言いません。ユキムシという愛称で親しまれています。
ユキムシと呼ぶのは一時期、つまり飛んでいるときだけ。トドマツの木からヤチダモの木に移動飛行する時。トドマツにいるのは6月から10月まで。根っこの樹液で生活します。
メスの単為生殖が繰り返されることで一年で幾世代も生まれるようですが、最後の世代のものが、平地で紅葉を迎える頃に「ユキムシ」となって、数日かけてヤチダモの木に移動します。産卵後、春に孵化するとトドマツに移動。そういうサイクルを繰り返しています。
ちなみに……ユキムシにも幾つか種類があって、トドノネオオワタムシのように白いふわふわがない、あるいは少ないように見えるものもあります。たとえば「ケヤキフシアブラムシ」は、市街地で多く見られるもので、見た目は普通の小さい黒い虫。体長も約2ミリと小さめです。10月に目指す樹木も違って、産卵などのためササの根からケヤキの木に移動していきます。
体長:約5ミリ(雪のような分泌物をつける)
トドマツ → ヤチダモ
体長:約2ミリ
ササ → ケヤキ
いずれも浮遊するのは、10月中旬~下旬の間で、無風でよく晴れた日。夏に暑い日が続くと繁殖期間が多くなり、大量発生に繋がります。
たとえば、2019年秋は、数十年ぶりの大量発生になり、市街地が霞むような現象が生じました。この年は平年の10万倍の数が飛んだと言われていて、死骸が地面に積もるほどでした。
死骸が野菜に入ると腐ったりカビが生えたりして廃棄につながる可能性もあります。また、大量の雪虫を吸い込んでアレルギーを発症する健康被害の危険性もあります。
【動画】大量発生した雪虫(トドノネオオワタムシ)とケヤキフシアブラムシ
【動画】雪虫を追いかけてみた!
【映像】雪虫と本物の雪の違いの比較動画
実はかわいそうな存在
最初に北海道の冬を経験した人は、ユキムシの到来を「あー!雪だ!」と大喜びしますが、初雪前であれば「雪」ではなく「ユキムシ」の可能性もあります。本当に雪のように、ふわふわと飛び回ります。それも大量に。これでは雪と思われても不思議ではありません。でも、よく見てください。黒い点がついているのがわかるでしょう。白いふわふわをつけているとはいえ、これは雪ではなくまぎれもなく虫です。
しかし、このユキムシ、実はかわいそうな一面もあるのです。ヤチダモの木に移動している最中に、どこか別の場所に付着してしまい、べた~と白いふわふわがついてしまうと、そこでそのユキムシの生涯は終わりです。たとえば、車の窓ガラスにべたっとくっついてしまってもそこでおしまいです。もっとも、その前にワイパーが作動してしまう場合もあるでしょうか。とにかく哀れです。
ユキムシ大量発生中に自転車で走行する場合は特に注意してください。まだ雪が降ってないから安心とばかりに思いっきり自転車を走らせると、服にユキムシがたくさんくっついているときがあります。普通に手で拭おう(はらおう)とするとつぶれます。白い妖精がつぶれて服に白い筋となって残ります。「雪虫を振り払う」という表現も、雪国ならでは。
また、鼻で大きく息をしないで下さい。口をあけながら運転しないで下さい。口の中に入ります。食べたい人は別ですが(笑)。
ユキムシと上手に付き合う方法(笑)……それはゆっくり歩くこと。普通に歩いたり自転車、バイクなど速いスピードでは、ユキムシが大量についてしまうことになります。ゆっくり歩いても、いくらか着くかもしれませんが、でも数は減らせます。服についてしまったら、はやめにふーっと吹いてあげるといいかと。
雪虫の大量発生から初雪までは平均21日後という調査結果
雪虫発生から初雪までの期間まではバラツキがあります。では平均すると一体何日になるのでしょう? この気になる疑問を、株式会社ウェザーニューズが調査し、このほど結果を発表しました。それによると平均21日後という結果になりました。
株式会社ウェザーニューズ(東京都)が2012年1月12日に発表しました。調査は北海道エリアのスマートフォン・携帯サイト利用者を対象に、雪虫が目撃されてから約1週間~10日で初雪が降るという俗説が本当かどうか調査する試みで、「雪虫大作戦」というかっこいい名前がつけられています。
調査方法は、利用者が雪虫を発見したら携帯電話のカメラ機能でそれを撮影、見つけた場所と数をリポートします。それら報告を参考に、雪虫発生日から初雪までの期間を調べ、過去の調査結果と比較検証するというもの。2007年以降調査しているのは、札幌市・旭川市・函館市など道内主要8都市です。
それによると、8都市の5年平均は「21日後」という結果が導き出されました。つまり、俗説より遅いというわけです。特に道東では、低気圧や前線の通過が不定期なため年によってバラバラな傾向があるよう。また、網走・帯広・根室・釧路の道東4都市の平均は26日で、他のエリアよりも長いという特徴があります。
ウェザーニューズによると、どの都市も、俗説より一週間以上遅くなっているのは、平均気温上昇等の環境の変化が影響しているのでは?と推測しています。
観測8都市の2007年~2011年の5年間の平均の日数は以下の通りです。北海道西部の4都市と、道東の4都市の違いが分かると思います。
・札幌市: 18日後
・旭川市: 11日後
・函館市: 19日後
・苫小牧市: 19日後
・網走市: 25日後
・根室市: 27日後
・釧路市: 27日後
・帯広市: 23日後
・8都市平均: 21日後
次の冬到来前にも調査が行われると思います。今度雪虫を目撃したら、それから初雪までの期間を数えてみると面白いかもしれません。