道南の江差町に、羊羹で有名な和菓子店「五勝手屋本舗」があります。一風変わったこの名前、一度聞いたら忘れられません。もちろん、羊かんをはじめとする和菓子の数々も、一度食べたら忘れられない味。聞けば、創業は明治時代なのだとか。
そこで店名の由来を含め、五勝手屋本舗の歴史に迫りつつ、いくつかのおすすめ商品をご紹介していきましょう。
昭和天皇にも献上された味
▼現在の五勝手屋本舗外観
創業以前より、菓子商五勝手屋として商いをしていたという五勝手屋本舗。店を構えたのは1870(明治3)年、現在と同じ場所での創業でした。
▼かつての店舗と看板と店の人々(写真提供:五勝手屋本舗)
ちなみに店の名前は、昔、江差の南方にあった五勝手村が由来です。五勝手とはアイヌ語で「波の打ちつける場所」を意味する「コカイテ」が語源であり、五勝手とも五花手とも表記されていたようです。
1900年に江差町と合併されたことにより五勝手村はなくなりましたが、今でもその地域を五勝手と呼ぶ人も多いようです。五勝手屋本舗では、そんな五勝手村の豆を使っていた縁もあり、店名にも採用したというわけです。
▼天皇行幸の際の発注書(写真右側)と当時の新聞記事
五勝手屋本舗の名を一躍有名にしたのは、1936(昭和11)年のことでした。昭和天皇が函館に行幸した際のお土産として、五勝手屋の羊かんが選ばれたのです。当時は新聞記事にもなるほど話題を呼び、以来、道南を代表する銘菓として知られるようになりました。
▼天皇に献上する羊かんを作る人々(写真提供:五勝手屋本舗)
天皇に献上する羊かんを作っている時の写真が、今でも残っています。モノクロなので分からないですが、紅白の横断幕を工場内に張り、職人さんたちの顔もどこか誇らしげです。
▼現在の店舗には昔の大黒柱や菓子の型が
こうした歴史の足跡は、現在の店舗にも残されています。1875(明治8)年に建てた蔵の大黒柱が階段横にあったり、壁一面に昔使っていた羊かんや落雁の型が飾られていたり。歴史に裏打ちされた自信が、商品を一層輝かせるのかもしれません。
五勝手屋といえばやっぱり羊かん
▼きれいに包装された商品が並ぶ店内
店内に入るとさまざまな商品が整然と並べれていますが、五勝手屋本舗といえば、やはり羊かんが外せないところ。でも、その羊かんもいろいろあるんです。
▼流し羊かん(バラ1本税込594円)ミニ流し羊かん(バラ1本税込173円)
もっともポピュラーで、お手軽なのが「流し羊かん」です。くどくなくさっぱりした味わいで、夏は冷蔵庫で冷やして食べるのもおすすめです。
▼丸缶羊かん(バラ1本税込270円)ミニ丸缶羊かん(バラ1本税込206円)
初めて見る人は「これが羊かん?」と驚くかもしれません。食べたい分だけ下底から押し出し、容器に付いている紐をくるっと回して切って食べます。レトロでかわいい羊かんです。
▼通好み(1袋税込324円)
丸缶羊かんの上端にだけまぶされたシャリシャリ食感の砂糖。その部分だけを食べたいという贅沢な要望に応えて誕生したのが「通好み」です。まさに、通が喜ぶ味わいです。
▼羊かんには十勝産の金時豆を使用
五勝手屋の羊かんは、どれも上品な甘さですっきりとした後味が特徴です。十勝産の金時豆で作られるということで、その工程を見せてもらいました。
▼湯気の立ち上る工場内
まずは金時豆を茹で、皮を剥いて水にさらします。その後、上澄みの水を捨てて絞り、生あんを作ります。
▼和菓子作りに欠かせない生あん
寒天と砂糖が溶けた液体を熱し、生あんを入れて撹拌します。
▼濃いぜんざいのような状態に
これを型に流し込み、冷めると羊かんのできあがりです。
▼工場や作業場には神棚が(写真左上)
こうしてできた羊かんは、店舗ではもちろん、北海道内の道の駅や百貨店で販売されています。北海道外の百貨店でも取り扱っているところがあるので、気になる人は探してみてください。
お呼ばれなどの際、手土産に羊かんを持っていくと、ちょっと大人な感じがします。そんな時にはぜひ五勝手屋本舗の羊かんを選んでみてください。誰もがおいしいと感じられる味わいはもちろん、レトロでかわいい容器や包装のデザインもきっと喜ばれるはずです。
【動画】筒形五勝手屋羊羹を食べてみた(野呂裕子)