白老町にある小さな温泉民宿「元和や(げんなや)」。国道から一本奥まった通りにあるその立地だけではなく、ネット予約サイト上でも見かけないため、知る人ぞ知る穴場の民宿となっています。今回は実際にお邪魔して、宿を切り盛りされている秋元さんご夫婦にお話を伺ってきました。
わずか5室の小さな民宿
元和やがオープンしたのは2017年10月で、まだ2年目に突入したばかり。前オーナーは別の屋号でペンションとして営業していましたが、ご夫婦ともに実家から近い白老町で、どうしてもこの場所で宿をやりたいと熱望していた秋元さんが前オーナーから建物を譲り受けました。
改装中に営業開始が危ぶまれるような状況もあったそうですが、約5ヵ月間の改装を経て民宿としてオープン。以前の姿を知っている筆者にとっては懐かしさと新しさを同時に感じる、心踊る雰囲気に変わっています。
お部屋は1階に少し広めの客室が1室と、2階にスタンダードな客室が4室で合計5室。浴室が階段で降りる地下のフロアにあるため、足の不自由な方などは1階での宿泊になるそうです。旅館では通常、広縁に1人がけのソファやテーブルなどが置かれることが多いですが、2階の和室はベンチが置かれているのが印象的でした。客室はすべて海側にあるため、ベンチは外を眺めるのに重宝することでしょう。
▼1階特別室「金色の間」
▼2階の和室(4室)
▼落ち着いた雰囲気の2階廊下
食堂スペースは一面ガラスになっていて、白老町では数少ない高台からの風景を最もよく楽しむことができます。昼間は青空の下に太平洋、室蘭本線を走る列車、暗くなれば漁火、そして朝日が昇る様子。窓の向こうの風景は時間と共に変わります。さらに国道から離れているためたいへん穏やかな環境で、秋元さんご夫婦もそこに惚れ込んでどうしてもこの場所で宿をやりたいと感じたそうです。
▼眺めの良い食堂スペース
▼窓から見える風景
白老を味わえる地物中心のこだわりの料理
料理は温泉宿に宿泊する大きな楽しみのひとつですが、秋元さんは板前一筋、そこにはかなりのこだわりを持っています。海鮮中心のメニューになりますが、食材は市場で、さらには知人の漁師さんに直接声をかけ、毎朝自分できちんと目利きしたうえで仕入れしています。そのおかげで最もベーシックなプランでも満足度は高く、新鮮かつ一手間かけられた料理が楽しめます。
▼通常コースの夕食(内容は仕入れの状況によって変わります)
夕食のお膳で最も目を奪われるのは、たいへん充実したお造りでしょう。内容はその日の仕入れ状況によって変わりますが、取材時には珍しく八角とボタンエビが仕入れられたということで、その両方がお造りになりました。八角は握りにも使われ、さらにパリッと揚げられた皮が天ぷらと一緒に並ぶという嬉しい一手間。
▼白老名産の椎茸などを使った天ぷら。この日は八角皮煎餅が添えられた
▼目も舌も喜ぶ、新鮮な海の幸。これで一人前
お客さんに出すまで生きていたというホッキ貝はサッと湯引きしてあるお陰で臭みがありません。舌の部分を食べることが多いホッキ貝ですが、ヒモや貝柱も添えられ食感や味の違いを楽しむことができました。
秋元さんのこだわりはテーブルに添えられる調味料選びにも見られます。昆布醤油と昆布の粉末が入った塩はいずれも室蘭市内で製造されている逸品で、お造りによく合います。
▼室蘭ヤヤン昆布を使った醤油と昆布塩
宿泊施設にとって料理は大きく運営コストに響く部分ですが、「板前として料理で妥協はしない、食材選びから調理・盛り付けまできちんと責任を持ってお出ししたい」という秋元さんの言葉通りの内容でした。
優しく癒すかけ流しの温泉
▼改装以前の雰囲気を残す地下の浴室
地下1階にある浴室は、部屋数に合ったこじんまりとした造りです。男女ともにあつ湯とぬる湯の2つの湯船があり、無色透明のお湯が静かにかけ流されています。泉質はアルカリ性単純温泉。老若男女問わず無理なく入ることができる優しいお湯ながら、pH8.8のアルカリ性で、クレンジング系の美肌成分と身体をしっかり温める成分が含まれる、しっかりした力のあるお湯です。
▼手前の浴室。地下とはいえ高台にあるので明るく清潔感あり
▼奥の浴室。こちらの方が広め
湯抜き清掃は基本的に毎日行われていて、その間(23時から翌朝6時まで)は入浴できませんが、その分、常に新しいお湯で安心して入ることができます。また、浴室の大きさに違いがあるため、予約状況によって男湯と女湯を入れ替えてくださるのも嬉しい配慮です。
民宿らしいおもてなしの心も魅力
リニューアルされたばかりでたいへん綺麗なお部屋とロケーション、こだわりの料理、そして温泉。どれも魅力的なのですが、それらをさらに引き立てるのが秋元さんご夫婦のおもてなしの心です。
基本は1泊2食ですが、お客さんの要望にできるだけ応えたいということで食事のない宿泊や、食事と入浴がセットの日帰り利用にも対応しています。また、6名以上で宿をまるごと貸し切ることができるという驚きの宿泊プランまで。この貸切プランは、家族や友人と気兼ねなく食事も温泉も宿泊も楽しみたいという贅沢な希望を叶えてくれる、秋元さんの嬉しい心遣いです。
元和やそのものを楽しんでくれるお客さんと顔と顔を合わせて接したいということで、予約時に直接お客さんとやり取りできないネット予約は使用していません。さらに仕事で大人数で来る方なども基本的に予約を受けていないそうで、そういった姿勢がこの宿への信頼度をさらに高めています。
助けてくれた周りの方への感謝や人の繋がりを大切にしたいという想いを込めて、宿名に「和」という言葉を入れたかったという秋元さん。その想いは実際にお二人とお話ししていてよく伝わってきました。さまざまな形態の宿が登場している今、あえて昔ながらの正統派の民宿としてスタートした元和やで、民宿の良さを感じていただけると嬉しいです。