北海道はかつて38団体・個人が分割統治していた?明治初期の分領支配時代の真相

北海道に開拓使が設置された明治時代初期。北海道は道外の諸藩等によって分領支配が行われていた時代があるのをご存知でしょうか。38団体・個人が参加しましたが、わずか2年間で終了しました。その間にどこの人たちがどの地域を管轄したのでしょうか。

最終的に38団体・個人が分領支配

1869年(明治2年)7月、明治政府は北海道の開拓のための開拓使を設置しました。設置はしましたが、財政状況は厳しく、人員も不足していました。北海道の経営を政府だけで行うには当然キャパオーバーでした。そこで開拓使設置早々、北海道を郡ごとに分割して、希望者に土地を割り当てて開拓に当たらせることとしました。

対象となったのは、諸藩、士族、庶民。結果的に、1省、1府、24藩、2華族、8士族、2寺院の38団体・個人に割当が行われました。それ以外の地域は、松前藩あらため館藩がもともと領有していた4郡(爾志郡、檜山郡、津軽郡、福島郡)または開拓使直轄地として扱われました。

1省行政機関の兵部省
1府東京府(現:東京都)
24藩(※松前の館藩を除く)仙台藩、斗南藩、佐賀藩、福岡藩、弘前藩、鳥取藩、岡山藩、米沢藩、大泉藩、一関藩、高知藩、彦根藩、徳島藩、鹿児島藩、山口藩、水戸藩、金沢藩、和歌山藩、広島藩、名古屋藩、静岡藩、福山藩、熊本藩、久保田藩
2華族徳川慶頼、徳川茂栄
8士族伊達邦成、伊達邦直、伊達宗広、亘理胤元、片倉邦憲、稲田邦耕、五島盛明、石川邦光
2寺院佛光寺、増上寺

仙台藩などが開拓に意欲

北海道開拓に意欲的だったのは、戊辰戦争で破れて領地を削減されていた関係で新天地を求めていた仙台藩、北海道開拓に熱意のあった佐賀藩、水戸藩、斗南藩くらいでした。

中でも仙台藩関係では、仙台藩が(日高)沙流郡、(根室)標津郡・目梨郡、(千島)紗那郡・蘂取郡、士族では伊達邦成が(胆振)有珠郡・虻田郡・室蘭郡、石川邦光・片倉邦憲が(胆振)室蘭郡、伊達邦直・伊達宗広・亘理胤元が(石狩)空知郡をそれぞれ領有。中には他の藩が返上した地域を引き継いで領有した例もありますが、いずれも領有支配期間終了まで経営に勤しみ、たとえば伊達市の地名の由来になるなど、多大な功績を残しました。

水戸藩は、(天塩)苫前郡・上川郡・中川郡・天塩郡・利尻郡を領有すると、藩主自ら現地に向かい、経営に力を注ぐ努力が行われました。

とはいうものの、当時はどの藩も財政難で開拓希望者は少ない状況でしたので、熱意のある藩を除けば、政府が半強制的に各藩に分領支配を命じたという背景があります。財政難と入植後の困難ゆえに、途中で返上してしまった領主もいます。

このほか、東京府が根室3郡を領有して行政下においたほか、兵部省は戊辰戦争で反政府軍の中心であった会津藩の降伏人を北海道開拓にあてがうべく、(後志)太櫓郡・瀬棚郡・高島郡・小樽郡、(胆振)山越郡、(石狩)石狩郡、(釧路)足寄郡・白糠郡・阿寒郡への移住を図りました(1870年(明治3年)1月5日または8日で返上)。

最終的に、1869年(明治2年)7月から1871年(明治4年)8月までの2年間で分領支配は終わりました。廃藩置県および北海道の経営方針の変更が理由です。これにより、館県を除く北海道全域が再び開拓使直轄地に戻されたのです(館県を除く)。

北海道11国86郡の分領支配一覧

領有開始年月日は異なります。期間満了となっていない地域は、満了せずに返上し、開拓使直轄地になりました。館藩(→館県)については分領支配は関係なく4郡を領有しました。

※館藩(旧松前藩)

  • 爾志郡・檜山郡・津軽郡・福島郡

渡島国

  • 上磯郡:開拓使直轄地
  • 茅部郡:開拓使直轄地
  • 亀田郡:開拓使直轄地

後志国

  • 久遠郡:福岡藩(期間満了)
  • 奥尻郡:福岡藩(期間満了)
  • 太櫓郡:兵部省→斗南藩(期間満了)
  • 瀬棚郡:兵部省→斗南藩(期間満了)
  • 歌棄郡:斗南藩(期間満了)
  • 島牧郡:弘前藩・鳥取藩・佛光寺(期間満了)、岡山藩
  • 寿都郡:開拓使直轄地
  • 磯谷郡:米沢藩(期間満了)
  • 岩内郡:開拓使直轄地
  • 古宇郡:開拓使直轄地
  • 積丹郡:開拓使直轄地
  • 美国郡:開拓使直轄地
  • 古平郡:開拓使直轄地
  • 余市郡:開拓使直轄地
  • 忍路郡:開拓使直轄地
  • 高島郡:兵部省
  • 小樽郡:兵部省

胆振国

  • 山越郡:兵部省→斗南藩(期間満了)
  • 虻田郡:大泉藩→伊達邦成(期間満了)
  • 有珠郡:伊達邦成(期間満了)
  • 室蘭郡:石川邦光→伊達邦成・片倉邦憲(期間満了)
  • 幌別郡:片倉邦憲(期間満了)
  • 白老郡:一関藩(期間満了)
  • 勇払郡:高知藩(期間満了)
  • 千歳郡:高知藩(期間満了)

日高国

  • 沙流郡:仙台藩・彦根藩(期間満了)
  • 新冠郡:徳島藩→稲田邦植(期間満了)
  • 静内郡:増上寺→稲田邦植(期間満了)
  • 三石郡:開拓使直轄地
  • 浦河郡:鹿児島藩
  • 様似郡:鹿児島藩
  • 幌泉郡:開拓使直轄地

石狩国

  • 札幌郡:開拓使直轄地
  • 石狩郡:兵部省
  • 厚田郡:開拓使直轄地
  • 浜益郡:増上寺(期間満了)
  • 夕張郡:高知藩(期間満了)
  • 樺戸郡:山口藩(期間満了)
  • 雨竜郡:山口藩(期間満了)
  • 空知郡:伊達邦直・伊達宗広・亘理胤元(期間満了)
  • 上川郡:開拓使直轄地

天塩国

  • 増毛郡:山口藩(期間満了)
  • 留萌郡:山口藩(期間満了)
  • 苫前郡:水戸藩(期間満了)
  • 天塩郡:水戸藩(期間満了)
  • 中川郡:水戸藩(期間満了)
  • 上川郡:水戸藩(期間満了)

北見国

  • 利尻郡:水戸藩(期間満了)
  • 礼文郡:金沢藩
  • 宗谷郡:金沢藩
  • 枝幸郡:金沢藩
  • 紋別郡:和歌山藩
  • 常呂郡:広島藩
  • 網走郡:名古屋藩
  • 斜里郡:名古屋藩

十勝国

  • 広尾郡:鹿児島藩→徳川慶頼(期間満了)
  • 当縁郡:鹿児島藩→徳川慶頼(期間満了)
  • 上川郡:静岡藩(期間満了)
  • 中川郡:静岡藩(期間満了)
  • 河東郡:静岡藩(期間満了)
  • 十勝郡:静岡藩(期間満了)
  • 河西郡:鹿児島藩→徳川茂栄(期間満了)

釧路国

  • 足寄郡:兵部省→福山藩
  • 白糠郡:兵部省→福山藩
  • 阿寒郡:兵部省→福山藩
  • 釧路郡:佐賀藩(期間満了)
  • 川上郡:佐賀藩(期間満了)
  • 厚岸郡:佐賀藩(期間満了)
  • 網尻郡:広島藩

根室国

  • 花咲郡(色丹島):増上寺→稲田邦植(期間満了)
  • 花咲郡(色丹島除く):東京府
  • 根室郡:東京府
  • 野付郡:東京府
  • 標津郡:熊本藩→仙台藩(期間満了)
  • 目梨郡:熊本藩→仙台藩(期間満了)

千島国

  • 国後郡:久保田藩(期間満了)
  • 択捉郡:彦根藩(期間満了)
  • 振別郡:佐賀藩→仙台藩(期間満了)
  • 紗那郡:仙台藩(期間満了)
  • 蘂取郡:高知藩→仙台藩(期間満了)

参考文献:『北海道の歴史』