北海道の北の方、宗谷地方にあるサロベツ原野の小高い丘に、ポツンと建っている一軒家があります。木造で三角屋根が印象的なその建物、実は民宿なんです。とにかく周りにあるのは大自然のみ。広い空と広い大地の真ん中に堂々と建つ姿は、それだけで「こんなところに泊まってみたい!」と思わせるのに十分な説得力があります。しかも宿の名前は「あしたの城(じょう)」。なんだか面白そうじゃありませんか?
四季折々の自然に抱かれるような感覚
▼自然以外は何もない宿の周辺
百聞は一見にしかず。「あしたの城」の外観写真は、どれもこれもうっとりするほど美しい自然に囲まれていて、見ているだけで泊まりたくなります。
▼冬景色にも惹かれること必至(写真提供:あしたの城)
小樽から稚内まで380kmの海岸沿いを走るオロロンライン。そこから天塩郡にある道道444号線に入り、JR豊富駅方向、東へ2.5kmほど走ったところに、民宿の建つサロベツ原野の小高い丘があります。道道444号線沿いに私道への入口を示す看板が出ているので、見逃さないように気をつけてください。
▼「あしたの城」と書かれた看板
「あしたの城」に泊まるということは、まさに自然を肌で感じるということ。春には広い空を列をなして飛んでいく渡り鳥の姿を眺め、夏はユリ科であるエゾカンゾウの可憐な花を愛で、秋は見事な草紅葉に溜め息を漏らし、冬はどこまでも白く染まる雪景色に思いを馳せる。そんな四季折々の楽しみが、ここにはあります。また、新月の夜は満天の星を仰ぐこともできるし、天気がいい日には朝日の昇るサロベツ原野や、夕やけに染まる利尻富士も見ることができます。
▼夜になると満点の星が!
人気の宿とあって、夏にはライダーたち、冬にはスノーシューやクロスカントリーなどウィンタースポーツを目当てに訪れる人たちも。それぞれが、それぞれの楽しみ方で、自然と親しんでいるのです。
▼上空からの写真で改めて自然に囲まれた宿だと再確認(写真提供:あしたの城)
気になる施設の内部は? 食事は?
▼暖かそうな薪ストーブと雪のサロベツ原野(写真提供:あしたの城)
さて、気になる客室ですが、ここ「あしたの城」では客室は主に寝るためだけの場所。個室とドミトリー(男女別相部屋)があり、部屋によって定員数が異なります。
▼グループやおひとりだけで泊まるための個室
▼二段ベッドの連なるドミトリー(男女別相部屋)
食事は一階の広間で、他のお客さんたちと共にいただきます。
▼広々とした一階の憩いスペース
「あしたの城」名物といえば、オリジナルの牛乳鍋。牛乳、味噌、コンソメ、少しの醤油などで、たっぷりの野菜などを煮込んでいきます。袖触れ合うも多生の縁、たまたま居合わせたお客さん同士で囲む鍋は、不思議と温かく、忘れられない思い出となります。
▼お客さんたちから大好評の牛乳鍋
朝はしぼりたての牛乳とパン、そして夏は自家製の野菜もたっぷり添えられています。普段レストランの食事に添えられていても手を出さない人の多いパセリですが、ここのパセリは自家製。そう聞くと、大抵のお客さんが喜んで完食するのだとか。
▼彩り豊かで朝から食欲が刺激される
「あしたの城」と名付けた経緯とは
「あしたの城」の歴史は古く、長崎出身のご主人が宿を始められたのは1977(昭和52)年。大阪出身の奥さまとの馴れ初めなど、詳しいことは宿のホームページに掲載されています。読みものとしても面白いので、おすすめですよ。(「あしたの城物語」)
▼お客さんに牛乳鍋を振る舞うご主人(右)
そして何と言っても気になるのが「あしたの城」という名前。自分の城であるという気持ちと、一度聞いたら忘れられないということから付けたそうですが、意外や意外、ご主人自身はあの名作漫画のファンというわけではないのだとか。そのため、客室には漫画にちなんで「力石徹」「カーロスリベラ」などと名前が付けられているにも関わらず、主人公の「矢吹丈」という名前は使っておらず、それがせめてもの抵抗(?)なのだそうです。
ユニークなご主人と、おいしい食事、そして何より、目の前に広がる圧倒的な大自然。ひとたびここで過ごす時間を味わってしまえば、宿を出て日常へと帰っていくのがなんだか億劫になってしまいそうです。