道民が愛する「甘納豆入り炊き込み赤飯」って何?なぜ北海道で根付いた?

北海道には甘い赤飯があります。どんなものか、なぜ北海道だけ甘い赤飯なのか、創設70年以上の伝統を持つ「学校法人 光塩学園」の理事長・南部ユンクィアンしず子さんにお話を伺いました。(トップ画像: 「学校法人 光塩学園」 提供)

そもそも赤飯とは

祝い事の席はもちろん、運動会や親戚の集まりなど賑やかな場に欠かせないお赤飯。今ではスーパーやコンビニでも気軽に買い求めることができますが、古くは「赤い食べ物は邪気を払い、災いを避ける力がある」と、赤米を神様に供える風習がありました。

赤米は中国大陸から渡ったものですが、その後私たちが食べている日本のお米、うるち米を小豆で赤く色づけして、お祝いの席で振る舞うようになりました。

ちなみにもち米を使うようになったのは、もち米は冷めても硬くならない、またもともと赤飯は蒸して作るものなのでもち米の方が向いているなど諸説ありますが、定かではありません。

「甘納豆入り炊き込み赤飯」とは

道内のスーパーやコンビニでも販売されている甘納豆入り赤飯

このように日本全国で古くから食べ継がれてきた赤飯。おめでたい席でなくてもちょくちょく食卓に上りますが、そんな時のために北海道では常に甘納豆と食紅をストックしている家庭も多いのです。

その理由は北海道の赤飯には小豆の代わりに甘納豆を使い、食紅で淡いピンク色に色付けするため。そう、北海道の赤飯には、甘納豆と食紅が欠かせないのです。

この甘納豆入りのピンク色のお赤飯は、デパ地下やスーパー、コンビニではおにぎりやお弁当として販売されています。サザエ食品株式会社では晩夏の頃になると甘納豆赤飯で餡を包んだ「甘納豆赤飯おはぎ」を製造してます。

北海道のセブンイレブンやセイコーマートなどコンビニのおにぎり売り場には甘納豆の赤飯がある
スーパーのサザエ食品売り場では、甘納豆赤飯がパックで販売されている
サザエ食品が晩夏から12月までの期間限定で販売する「甘納豆赤飯おはぎ」

このように北海道ではあまりにポピュラーで、道民の中にはピンク色ではない赤飯の存在を知って驚く人もいるほどです。

ちなみに筆者が職場の9人(内北海道出身8名、北関東出身1名/20代2名・30台1名・40代3名・50代3名)にリサーチしたところ、9人中3人は甘納豆が主であるものの小豆で作ることもあるそう。残り6人は「甘納豆入り炊き込み赤飯」でした。北関東出身の1名は北海道に来て初めて甘納豆入りの赤飯を食べたそうで、小豆入りに馴染みがあるものの甘納豆入りもありだと思ったと話してくれました。

友人のお母さんは、普段からよく甘納豆入りのお赤飯を作り、私も何度もご相伴にあずかりましたが、私の中ではナンバーワンのおいしさです。道産のもち米「はくちょうもち」を使い、もち米三合に対して塩を小さじ2杯ほど入れるのがポイントだそうです。

また余談ですが、元北海道日本ハムファイターズの稲葉篤紀さんは北海道へ来てから甘納豆入り赤飯が大好きになったそうで、引退の日には怜奈夫人が甘納豆を使った北海道の赤飯で送り出した、ということです(一部「スポニチ」電子版 2014年10月6日掲載)。

「甘納豆入り炊き込み赤飯」のルーツ

南部ユンクィアンしず子理事長

そんな道民が当たり前に食べている「甘納豆入り炊き込み赤飯」。そのルーツはどこにあるのか、「学校法人 光塩学園」の理事長・南部ユンクィアンしず子さんにお話を伺いました。

「学校法人 光塩学園」は、1949年(昭和24年)に札幌市の大通西14丁目に、しず子さんのお母様に当たる故・南部明子氏が「南部服装研究所」として創設。1953年(昭和28年)には校名を「光塩学園家政専門学校」と改称。

当時は着るものと食べるものは自分たちで作る時代だったこともあり、洋裁と和裁に調理と一般教養を加えた当時としては画期的な学校として、新しい女性像を作り上げてきました。

そしてこの「光塩学園」から生まれたのが道民が愛してやまない「甘納豆入り炊き込み赤飯」で、その産みの親が「光塩学園」の創設者、南部明子さんです。

南部明子初代学園長

光塩学園の設立者、故・南部明子さんと「甘納豆入り炊き込み赤飯」

今回編集部がお話を伺った南部ユンクィアンしず子さんは南部明子さんの三女にあたり、現在は「学校法人 光塩学園」の理事長として、お母様の味を学校やご自身の著書を通じて今に伝えています。

しず子さんがまだ幼少の頃から札幌神社のお祭り(現在の北海道神宮祭にあたる)の時には、お母様の明子さんお手製の旬の本マスをみりんじょうゆにつけた「マスの浸け焼き」やお煮しめと一緒に「甘納豆入り炊き込み赤飯」が南部家の食卓を飾っていました。

なぜ、小豆ではなく甘納豆だったのでしょう。当時、明子さんは妻としてまた母として、そして学校を運営するキャリアウーマンの先駆けとして多忙な日々を送っていました。常に大勢の人が出入りしていた南部家は、夕食時ともなると10人で食卓を囲むのも珍しくなかったそうです。

そんな忙しい日々のなかでも料理や家事に手を抜かなかった明子さんが、「誰にでも、簡単に、美味しいお赤飯が作れたら・・・・・・」と考案されたのが「甘納豆入り炊き込み赤飯」だったのです。

一般的なお赤飯は前日から小豆をうるかしたりと下ごしらえが必要で、1日では作れないことも。そんな時に小豆の代わりに甘納豆を使えば普通のお米を炊くのと同じ時間で仕上がるという、今でいう時短レシピでした。

それにしても「甘納豆を入れる」という発想自体はなかなか思いつくものではありません。甘納豆を入れようと思ったのは明子さんがまだ小さい頃、子どもにはちょっと地味な味に思える小豆のお赤飯に、明子さんのお母様が甘納豆を乗せたことが始まり。甘納豆の登場は、しず子さんのおばあさまのアイデアが原点だったのです。

町や村のお菓子屋さんから甘納豆が消えた

しず子さんによると「甘納豆入り炊き込み赤飯」が世の中に出はじめたのは、1950年代前半頃でした。1953年(昭和28年)4月、校名を「光塩学園家政専門学校」に改めると、調理を学ぶ女性が急増。明子さんも講師のほか、新聞社や食料品会社が主催する講演会の講師として道内を飛び回るようになります。

そんな明子さんは、今より人数が多かった当時の家族構成を踏まえて、時間がかからず簡単でおいしく、お財布に優しいものをいつも考えていました。そんな中から生まれた「甘納豆入り炊き込み赤飯」は、講演会やテレビの料理番組で披露するとたちまち大人気になりました。

前日から小豆をうるかす必要もなく、小豆から出る赤い色の代わりに食紅を使い、更にうるち米ともち米を半々にすることで炊飯器でも美味しく炊けるため、日々の家事に忙しい専業主婦には驚きのレシピだったのでしょう。講演会の翌日には町や村のお菓子屋さんでは甘納豆が売り切れたほどです。

また、小豆では出せない華やいだ色合いを出すために、水で溶いた食紅で色付けをしたことで見た目にも可愛らしく、子どもたちに喜ばれたのも人気の理由です。

食紅といえば、しず子さんがテレビの料理番組で「甘納豆入り炊き込み赤飯」の作り方を紹介した際、女性アナウンサーが食紅を水で解かずに粉ごと炊飯器に入れてしまい、慌ててスタジオへ電話を入れて訂正のテロップを流してもらったのだそう。生放送が主だった時代の微笑ましいエピソードです。

このように、一度食べた子どもたちが「お母さん、また甘納豆のお赤飯を作って」とリクエストが出るような料理として浸透。やがてその子どもたちが大人になり家庭を持つと、簡単なレシピなのですぐに作ることができる「甘納豆入り炊き込み赤飯」は北海道の各家庭で作り継がれていくようになりました。

しず子さんは、「母には知恵と閃きがありました。そして料理には知恵が大切ですよね」と話します。

知恵と閃きから生まれた北海道のソウルフード「甘納豆入り炊き込み赤飯」を作ってみよう!

しず子さんによると、「甘納豆入り炊き込み赤飯」を商品として売り出したのは、サザエ食品が最初だったといいます。今では、様々なメーカーが製造・販売しています。

それでは、光塩学園さんでは「甘納豆入り炊き込み赤飯」を使ったアレンジ料理というのはあるのでしょうか。

以前、その土地特有の行事や習慣、そこに暮らす人々の特徴を紹介するテレビ番組(秘密のケンミンSHOW)で、札幌市内の一般家庭で作る「甘納豆入り炊き込み赤飯」が紹介されましたが、それは明子さんのレシピと全く同じだったそう。しず子さんは「とても簡単なレシピで、アレンジの必要がないのかもしれませんね」と話します。

「シンプルで美味しい!!」ゆえに「今も昔も変わらない」。それが長く愛される「甘納豆入り炊き込み赤飯」なのです。

「甘納豆入り炊き込み赤飯」レシピ

(『懐かしいけど新しい  南部あき子のアイディア料理』鴫原正世・南部ユンクィアンしず子/北海道新聞社より)

「学校法人 光塩学園」 提供

材料(2合分)

  • うるち米 1合 (180ml)
  • もち米 1合 (180ml)
  • 水 360ml
  • 甘納豆 80g
  • 塩 少々
  • 食紅 少々
  • 紅しょうが 適量
  • ごま塩 少々

作り方

  1. うるち米、もち米はあわせてとぎ、30分くらい水につけて、水切りをする。甘納豆は手早く洗って水切りをする。
  2. 炊飯器に米、水、塩少々と少量の水に溶いた食紅水を入れ普通に炊く。蒸らすときに甘納豆を加える。
  3. 器に赤飯を盛り、ごま塩をかけ、薄切りの紅しょうがを添える。

ここがPoint !

  • お米は30分以上水につけると炊いたご飯が水っぽくなる。洗いすぎると豆の皮がやぶれるため甘納豆は手早く洗う。(昔の人は豆を煮るときに皮が破れる事を切腹と言って縁起が良くないと嫌った)
  • ごま塩と紅生姜を忘れずに。この二つを加えることで甘じょっばさが生まれて、甘納豆入り炊き込み赤飯特有のおいしさに !

しず子さんは、男性にも「甘納豆入り炊き込み赤飯」を作ってみて欲しいと言います。そして主食の「甘納豆入り炊き込み赤飯」に肉か魚、そして野菜を添えれば完璧。甘納豆で蛋白質も採れるので、栄養バランスはパーフェクト!

「甘納豆入り炊き込み赤飯」を食べることで北海道の食を繋いでゆく・・・・・・。道民として先人の知恵と創意工夫を大切にし育んで行きたいですね。

取材協力いただいた「学校法人 光塩学園」

取材協力:「学校法人 光塩学園」