流氷の高さが2~3倍に?!全国的にも珍しい知床蜃気楼・幻氷とは?

みなさんこんにちは。
オホーツク観光大使、ラウフェンCukaです。
こちらの記事では、laufenが担当していたAir-G'(FM北海道)の番組「laufenのkita-note」で取材した模様を、文字と写真でリポートします。

<第57回ゲスト> 知床蜃気楼・幻氷研究会 佐藤トモ子さん(2016年6月16日放送)

―― laufenのkita-note、Cukaがお送りしています。
皆さんは蜃気楼を見たことがありますか? 水平線、地平線の景色がゆらゆら揺れて見える現象です。
この蜃気楼を研究し、本を出版された方が知床にいらっしゃいます。
今日は斜里町在住の佐藤トモ子さんとお電話が繋がっています、イランカラプテ!(Cuka)

佐藤:イランカラプテ!

▼秋の上位蜃気楼(日の出漁港の伸び上がり)2014年10月19日13時ごろ、斜里町前浜にて撮影

―― 佐藤さんが蜃気楼に興味を持たれたのはいつ頃のことでしょうか?

佐藤:さかのぼると子供の頃、私は内陸の出身で海の方に住んでいる親戚から、海には蜃気楼という形がどんどん変わっていく面白いものが見られるんだよと聞いたことがあったんです。
死ぬまでに一回は見たいなと子供の頃に思ったことが始まりですね。
夫の転勤で7年前に斜里町へ引っ越して来たのですが、知床で蜃気楼が見られるというニュースを昔見たことがあり、斜里に住んだら実際に見ることができるかなと思いました。

―― 私も斜里町出身なのですが、小さい頃父親からここではよく蜃気楼が見えるんだよと聞いていて、実際にそのことが歌詞に入った曲も書いたことがあります。
斜里では他の地域と比べて、頻繁に蜃気楼を見ることができるそうですね?

佐藤:一般的に今まで日本で有名だった蜃気楼は、春から初夏の時期に見えるのですが、斜里でもその時期に加えて8月ぐらいまで多く見られ、秋にも少し見られるようです。
そして全国の他の地域と比べても、冬にたくさん見ることができるのが特徴です。

それがなぜかということはまだ科学的には証明できていない段階なのですが、今のところの予想では地形も関わっていると思っています。
斜里からウトロ方面にかけて湾になっていますよね? そうやって北の方に海があって陸地があるということで、気象現象にバリエーションが出てくるのだと思います。

本州だと6月くらいになると気温が高くなり水温が上がってしまうので条件が整いにくいし、梅雨もあるので見えなくなってしまうんですよ。
北海道は梅雨も無いし、夏になっても涼しい風が入って来ることがあるので、暖かい風と冷たい風が一緒に発生するなど、気象条件が整いやすいということが理由ではないかと今調べているところです。

▼夜景の上位蜃気楼(網走の街灯りの伸び上がり)2016年1月9日22時ごろ、斜里町以久科原生花園の海岸にて撮影

―― 基本的には暖かいものと冷たいものがあるところで発生する、ということなのでしょうか?

佐藤:そうですね、空気と気温との温度差があるときに出るものなので、真夏のように暑い日は出にくいです。

―― 蜃気楼と一言で言っても、条件が違うと色々な種類が見られるということですが、どんなタイプがありますか?

佐藤:専門的な話になってしまうのですが、まず下位蜃気楼というものと上位蜃気楼というものがあります。
下位蜃気楼というものは皆さんも見たことがあるかもしれません。道路で遠くの方に水が見えるけど先へ進むと消えてしまうような……逃げ水とも言われているのですが、それを下位蜃気楼といいます。これは全国どこでも見られる蜃気楼です。

斜里で見られるのは上位蜃気楼という、とても珍しく全国的にも特別な場所でしか見られないとされている蜃気楼です。
上位蜃気楼は、例えば海の上にいる船が上の方に大きく伸びて見えたりとか流氷の蜃気楼が知床では特徴で、よく外国の景色が見えると思っている方もいるのですが、そうではなく実際にすごく小さいものがとても大きくなったり、変わった形に変化して幻想的な見え方をする現象が上位蜃気楼というものなんですね。

▼空飛ぶ流氷(流氷の下位蜃気楼)2017年2月1日7時半ごろ、斜里町以久科原生花園の海岸にて撮影

▼初冬の上位蜃気楼(GIF動画)(網走の建物の伸び上がり)2015年12月4日11時ごろ、斜里町以久科原生花園の海岸にて撮影

▼真冬の上位蜃気楼(GIF動画)(フレトイ展望台など浜小清水方向の風景の伸び上がり)2017年1月13日7時半ごろ、斜里町以久科原生花園の海岸にて撮影

―― 今まで佐藤さんが見てきた中で、この蜃気楼はすごかった!というものはありますか?

佐藤:流氷の蜃気楼で春に見られるものには、特別に「幻氷」という名前が付いています。
流氷が去ってもうちょっとしか残っていない状態のときに、2倍3倍の高さになって流氷が見えたりします。
もう流氷はいなくなったはずなのにすごく白く見えるな……というような見え方です。

▼幻氷(春の流氷の上位蜃気楼)2014年4月29日12時ごろ、斜里町以久科原生花園の海岸にて撮影

―― 初めて見たときびっくりしませんでした?

佐藤:はい、一度幻氷を見てみたくて探しに行ったのですが、実際に見てみると海の向こうに大陸が現れたような感じに見えて、本当に驚きの光景でした。
しかもずっと見ていると消えたり現れたりするんですね。流氷が多かった年にすごく良い幻氷が見えたことがありまして、それが一番印象に残っています。

―― やはりその年その年で気温も違うので、見え方もかなり変わってくるのでしょうか。

佐藤:そうなんです、それを観測して調べている人も今までにいなかったので、私や友人たちで会を作って見ているのですが、年ごとの変動が大きく、今年は多いとか今年は少ないということがわかってきました。
今年(2016年)は流氷が少なかったので流氷の蜃気楼はそんなに見られなかったのですが、その代わり流氷が去ってから初夏まで見えるタイプの蜃気楼で、建物などが大きく変化する現象は多く見られました。

▼四角い太陽(蜃気楼の一種)と能取岬の上位蜃気楼:2013年6月7日19時ごろ、斜里町前浜にて撮影

―― 佐藤さんが研究してきた全国の蜃気楼のことをまとめたビジュアルブック「蜃気楼のすべて」が2016年4月に発売されたということで、こちらはどのような本になっていますか?

佐藤:蜃気楼を見られる場所というのが全国で何ヶ所か確認されていまして、それぞれの場所に私たちのような愛好家や研究をしている仲間がいます。
その仲間の十数名で分担し、全国の蜃気楼のことを書いた本です。

―― これから斜里町へ行って蜃気楼を見てみたいという方も多いと思うのですが、そのときこうやって見た方が良いというポイントを教えてください。

佐藤:蜃気楼は意外と小さくて、肉眼で見ようとするとよくわからないんですよ。この本に載っている写真も全部望遠レンズで撮っています。
なので双眼鏡、望遠レンズを持ってきていただくのが一番大事ですね。

あとどういうときに探したら良いかというと、まず共通した条件は風の弱い日です。
それで晴れていれば一番良いのですが、曇っているときでも出ることがあるので諦めずに探してみてください。
皆さん一回も蜃気楼を見たことがない方がほとんどだと思うので、先ほど紹介していただいた本を見たりして、どういうものなのかイメージして探していただけると見つかりやすいかなと思います。

―― ちなみにここへ行けば見られる確率が高いよ!という場所を教えていただけますか?

佐藤:斜里町に以久科原生花園という場所があるのですが、そこから海岸に出られるようなっています。
冬は流氷が見えますし、夏は広大な砂浜や知床連山が見えるという良いスポットで、実は蜃気楼も見える場所です。

▼流氷原に現れた上位蜃気楼(網走方向)2017年1月15日10時ごろ、斜里町以久科原生花園の海岸にて撮影

―― ありがとうございます!お近くに行った方はぜひチェックしてみてください!
佐藤さんが考える北海道、知床らしい音というのはどんなものでしょうか?

佐藤:私の住んでいる斜里町は青森県弘前市と友好都市なので、夏に「しれとこ斜里ねぷた」というお祭りが開催されます。
その練習が6月の後半になると始まり、お囃子や笛、太鼓の音が聞こえてきて、今年もまたねぷたの季節になったなと感じさせてくれます。

―― 「蜃気楼のすべて」は日本蜃気楼協議会から1,800円(税別)で発売中。amazonなどからも注文することができます。
この時間は斜里町在住の佐藤トモ子さんにお話を伺いました、ありがとうございました!

佐藤:ありがとうございました。

写真提供:知床蜃気楼・幻氷研究会/日本蜃気楼協議会
蜃気楼・幻氷情報 from 知床(ホームページ)
知床の蜃気楼・幻氷を楽しもう(Facebookページ)

※Air-G'(FM北海道)「laufenのkita-note」は、2014年4月から2016年6月まで、毎週木曜日19:30~19:55の間放送されていた番組です

インタビュー後記(Cuka)

蜃気楼についての深いお話、いかがでしたか? 
子供の頃に父親から知床で蜃気楼が見れるという話は聞いていましたが、まさか全国的にも特別な場所だったとは知りませんでした。
今度から実家に帰る時は、蜃気楼もチェックしてみたいと思います。

夕日、流氷、野生動物、そして蜃気楼……私の生まれ育った知床は本当に魅力が沢山あるとあらためて思いました。
皆さんもぜひ知床にいらしてください!

今回でAIR-G’(FM北海道)「laufenのkita-note」のインタビュー掲載は最後になります。
ラジオ番組のお陰で、オホーツク・知床を中心に北海道で活躍されている方から、たくさんのお話を伺うことができました。
そしてそれを文章にして、こうして多くの皆さんにお届けすることができて、本当によかったです。

AIR-G’の皆さん、「laufenのkita-note」ディレクターの坂田さん、北海道ファンマガジンの皆さん、インタビューさせていただいた皆さん、文字起こし担当のともみちゃん、そしてこの企画を見てくださった皆さん、ありがとうございました!

私の連載はまだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします!

Cukaがボーカルとして所属している音楽プロジェクトlaufen:
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