【三笠市・夕張市・岩見沢市】南空知3市の炭鉱遺産を会場に現代アートを展示するイベント「そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014」が、土日祝日限定で開催中です。炭鉱と現代アートの融合というけれど、実際にどんなイベントなの?そんな疑問を解決すべく、編集部スタッフが各会場の様子と楽しみ方をご紹介します。実際に行ってみると、炭鉱や廃墟や芸術が好きな人はもちろん、そうでない人も楽しめるイベントでした。
そもそも「そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト」とは?
「そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014」(札幌市立大学主催)は、かつて石炭産業で栄えた空知地方に今も残る石炭産業遺産を会場に、12名の美術家・映像作家らと札幌市立大学学生・卒業生有志の現代アート作品を展示、「炭鉱の記憶を掘り起し、地域の誇りを呼び覚ます」というもの。
会場となっているのは、岩見沢市、三笠市、夕張市の3市に点在する、石炭を積みだすホッパー、発電所、送電線、鉄道駅跡といった、石炭産業システムの遺構です。普段は立ち入ることのできない場所も含まれており、その類が好きな人にはたまらないイベントとなっています。では、主な会場の様子をご紹介しましょう。
旧住友奔別炭鉱選炭施設内石炭積み出しホッパー会場(三笠市)
1880年に発見され、1900年に初開鉱、1971年に閉山した旧住友奔別炭鉱。現存する国内最大級のホッパーである、石炭積み出しのための精炭ホッパー(高さ20m、幅13m、長さ100m、西側全長40mに1960年に残り部分を増築)と、かつて東洋一の立坑と言われた立坑(櫓高さ50.5m、1960年建築)がありますが、手前の立坑は立入禁止、奥のホッパーが主会場となっています。ここでは4つの観覧エリアで構成されています。
▼手前の立坑は立入禁止
▼奥にあるホッパー
入口前にあるのが、白いドームテント。中渓宏一氏の「森かえる」という作品です。テント内にひっくり返した木製テーブルを配置したり、本人は電気自動車を所有し乗っているなど、自然の大切さを訴えている活動家です。
メインとなるホッパー内部1階は、壊れた窓からのわずかな光を感じながら、300人の市民が参加したフロッタージュ作品、市内12地点の土を採取し塗った作品を観つつ、逆側の出口を目指します。ホッパー内100mの長さを生かした作品群はどれも目を見張ります。また、作品がどのように作られているのか制作の様子を収録した映像も視聴できます。
中央部の仮設スロープを上がり、ホッパーの屋根裏で観ることができるのが、自然に還っていく姿を表現した上遠野敏氏作の「モスモス―黄金郷」。大きく口を開けた屋根から光が差し込み、通常は見ることのできない広々とした空間を照らします。
旧北炭清水沢火力発電所会場(夕張市)
1926年に完成した北炭の自家発電所で、1991年の廃止まで、最大5台の発電機で最大74,500kWを出力していたという、国内有数の発電所です。東亜建材工業株式会社が用地を取得し解体を進めていたものの、2011年に行われた「夕張清水沢アートプロジェクト」以降は、貴重な建物だとして解体をストップしています。
そんな発電所跡構内では、運炭施設と火力発電所の2つのエリアがメインとなっています。まず案内される運炭施設は、1階の2部屋と、階段を上って2階のロッカールームを見学できます。長谷川涼一氏作「漏出」と命名された作品の部屋には、テーブルの上に歴史を感じさせるものが置かれています。灰皿のタバコには口紅が残されているものもあります。男性が多い工場内ですが、ここでは女性が勤務していたことを示しています。
▼運炭施設
とりわけ大きな建物である旧火力発電所内は、地下、1階、2階と巡ることができ、冒険心をくすぐられます。作品点数は15点ほどで、年代物の建物に溶け込んでいます。吹き抜けとなっているエリアには、北川陽稔氏作の映像作品「Unknown Flare」が。炎と音が印象的な作品は、地下へ向かう鉱夫たちが闇を照らす光芒と、数千年培ったエネルギーを発して赤く燃える石を表しています。
▼旧火力発電所
2階エリアに階段を使って上ると、そこはまさにアート作品展示会場。地面に並ぶミニチュアの炭鉱住宅は目線を下げてみたくなる作品「かえるのをまちわびて」(伊藤里菜子氏作)。その奥には吹き抜けエリアに顔を出すことのできるドアがあり、開けると黄色の花が植えられています。モノクロの世界からカラフルな世界へを表す作品です。音を出し動いている作品もあります。それは大黒淳一氏の「Light to sound」で、ソーラーパネルを使って、太陽の光を音にして表現しているのだとか。エネルギーを生み出していた発電所ならではの発想です。
▼2階エリア
順路の終盤である地下に行けば、水の流れ、映像作品、そして、幻の名峰と呼ばれる清水沢山などが展示されています。そして是非この会場で見つけてみたいのが、三沢可奈氏の「ききクマさん」です。赤いミニチュアクマが会場内に6頭いるんだとか。すべて見つけてあげていただきたい!
▼地下の展示作品
移動する地蔵車も登場!
そのほか、鉄塔の下にある椅子に座って見上げることができる作品(夕張市)、炭鉱にまつわる建物や事物を箱庭風にしてテーブルに展示した作品(岩見沢市・旧朝日駅)などがあり、三笠から岩見沢を経て夕張まで、沿線各所に楽しみな展示があります。
▼鉄塔の下の椅子に座って見上げる。右は旧朝日駅
そして今回特に注目を集めているのが、世界初の巡礼する地蔵カー「赤帽ハイパーレスキュー六地蔵」です。上遠野敏氏の作品は、軽トラックの荷台に六つの地蔵が乗っており、移動していくというもの。今回唯一移動する作品であり、三笠市奔別会場から岩見沢、夕張清水沢会場までを結んでいます。神出鬼没であるため、遭遇したらラッキーと話題になっていますが、実は、地蔵車の現在地はTwitterアカウント@jizoshaで随時知ることができるため、見たい方はフォローしておくと良いでしょう。
▼映像:地蔵車
そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014の主な見どころを紹介してきました。受付が必要な三笠市奔別会場と夕張市清水沢会場の2か所はそれぞれ、ゆっくり見て回っても1時間ほど必要です(見学終了後特製ポストカードがもらえます)。10:00~16:00まで毎時00分にスタートするガイドツアーもだいたい1時間で、小話を聞きながらアート作品を楽しむにはこちらを利用すると便利です。
各会場は自家用車を利用するか、有料バスツアーを利用します。公共交通機関は途中の万字峠を走っていませんので、自家用車が必須。すべての会場を見て回るのであれば、4~5時間程度見ておくとよいでしょう。また、炭鉱遺産内部は歩きにくい暗く狭い階段、急なスロープ、ぬかるんでいる箇所などが多いですので、歩きやすく汚れても良い靴で行きましょう。
▼夕張の旧火力発電所と三笠の奔別の2会場では受付をします
時間が止まったかのような、壊れゆく炭鉱遺産の数々。そこにあえて光を当て、アートを展示し再び息を吹き込むことで、空知の旧産炭地の歴史に触れる機会創出にもなり、魅力の再発見につながる、そんなイベントです。空知にこんな場所があったのか!と驚きを隠せませんでした。これまで知らなかった空知の魅力がきっとあるはずですので、ぜひ会場をゆっくり歩き見つけてみてください。
▼そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014
会場:夕張市(旧北炭清水沢火力発電所・北炭清水沢炭鉱ズリ山・JR清水沢駅待合室・旧石炭の歴史村北ゲート付近の北炭送電線鉄塔)、三笠市(旧住友奔別炭鉱選炭施設内石炭積み出しホッパー・旧唐松駅)、岩見沢市(旧朝日駅・地崎農園の北炭送電線鉄塔)
日時:2014年8月23日~10月13日の土日祝日19日間、10:00~17:00(入場は30分前まで)(旧朝日駅・旧唐松駅は11:00~16:00)
※旧唐松駅・JR清水沢駅・鉄塔作品・清水沢ズリ山は平日も観覧可能。
入場無料