シューパロ湖に架かる三弦トラス鉄道橋「三弦橋(さんげんきょう)」。国内唯一で世界的に見ても貴重な橋であるが、2013年に夕張シューパロダムが完成すると、シューパロ湖の水位が上昇するため水没、再びその美しい姿を見ることは不可能となる。この現実が、一部の鉄道ファンや大夕張を愛してやまない人たちを悲しませている。最近では、週末になれば一日100人ほどが”見納め”のため現地を訪れているという。
そもそも三弦橋とはどんな橋なのだろうか。立ち入りが制限されている現在、三弦橋へ行くにはどのような手順を踏めば良いのだろうか。いつまで見られるのだろうか。他に水没してしまう構築物はあるのだろうか。関係者に話を聞いた。
断面が三角形の形をしている三弦橋
三弦橋は、日本初の三弦構造をもつ下路ワーレントラス鉄道橋。大夕張営林署が木材を輸送する目的で敷設した下夕張森林鉄道・夕張岳線のルート上にあった。正式名称は大夕張森林鉄道夕張岳線「第1号橋梁」。総延長は381.80m。西側から順番に、39mスパン1連、川があった場所に77mスパン1連、52mスパン5連、合計7連の鋼製下路ワーレントラスからなっている。なんといっても、断面が三角形の形をしているのが最大の特徴だ。これには工事費用削減と景観への配慮があったとされ、四角い橋に比べ軽く、重心を低くし、安定させることにもつながった。この特異な構造の橋梁は世界的にも珍しく、産業遺産として高い評価を得てきた。
写真(上): 道道136号夕張新得線側の高台から見る三弦橋。
写真(下): 一部枕木が残る三弦橋内。森林鉄道の運転士からはこのように見えた。
※いずれも、写真提供:LEVEL7G、「廃線跡の記録2(三才ブックス)」収録
全長:381.80m
高さ:湖底から最大68m
トラス:鋼製下路ワーレントラス全7連(各長さ:39m・77m・52m・52m・52m・52m・52m、高さ8.0m、下路桁幅6.0m)、リベット打ち組み立て
使用鋼材重量:約450t
設計荷重:森林鉄道一級線(E.R.S.12)
枕木:18cm×20cm×200cmを45cm間隔
橋脚:鉄筋コンクリート製、π型、最大高さ42.5m
総工費:約1億5279万円
設計:北海道開発局 有江義晴(1913-1987)
施工:上部:株式会社東京鐵骨橋梁製作所、下部:大成建設株式会社
シューパロ湖の東側湖岸には、「第1号橋梁(三弦橋)」に続くようにして「第2号橋梁」から「第6号橋梁」まで、合計6つの橋梁が残っており、その一部は対岸からも観察できる。これらは三弦橋ではない。
▼順番に「第4号橋梁」「第3号橋梁」「第2号橋梁」
第3号橋梁:ガーター全長約20m
第4号橋梁:トラス60m含む全長約80m
第5号橋梁:JKT(重構桁鉄道橋)トラス約20m
第6号橋梁:JKT(重構桁鉄道橋)トラス27.5m2連含む全長約72m
ダム建設で誕生するも5年しか使用しなかった三弦橋
夕張岳線の歴史から見てみよう。同路線誕生当時、大夕張鉄道南大夕張駅・貯木場を起点とする下夕張森林鉄道が既に敷設されていたが、その2.6km地点から分岐したのが夕張岳線。ちょうど現在のダムの付近が起点に当たる。そこから夕張川支流のシウパロ川や白金川沿いを経て白金沢までの11.6kmを1942年に着工、1946年に竣工した。1952年までに白金沢上流三股まで延伸、計16.3kmとなった。終点は夕張岳登山口の近くでもあったため、事業に影響がない程度に登山者も乗せていたという。
しかし、このころはまだシューパロ湖はない。三弦橋もまだない。三弦橋が建設されるのは1954年の大夕張ダム着工がきっかけだ。1952年にダム建設調査が行われ、夕張岳線の一部が新しく誕生するダム湖・シューパロ湖に水没することが判明した。それで1953年から1958年にかけて新線への付け替え工事(北海道開発局による補償工事)が行われるが、その過程で誕生したのが三弦橋をはじめとする鉄橋群というわけだ。
三弦橋のある場所には旧線の下夕張橋梁(27.5m×2連)が架かっていたが、高さを最大68mに上げ、全長を381.8mに延長。1956年冬に着工、1957年9月以降トラスの架設を行い、1958年6月までに竣工、供用開始した。ダムの完成は1962年。完成当時はまだ貯水されておらず、国内の森林鉄道で最も高い橋梁だった。また、赤い塗装がなされていた。しかし完成したのもつかの間、1963年に全線廃止。自動車への転換がなされることとなった。使用期間はわずかに5年。ダム完成後貯水されたシューパロ湖上を鉄道が走ったのは1年程度だったということになる。
鉄道廃止後、三弦橋はトラックを通すことのできないサイズであったため一般道路として転用されることはなかった。また、シューパロ湖周遊歩道を整備する際に歩道橋として転用する検討もなされたことがあったようだが、実際には森林鉄道として約5年間使われた以外は何にも転用されることなく、またレール以外は取り壊されることなく現在に至っている。地元・大夕張出身の有江義晴氏が『シューパロ湖や夕張岳とマッチした構造に』と設計した三弦橋は、約半世紀の間シューパロ湖のシンボルであり続けた。
三弦橋を見に行く方法
では、この美しく貴重すぎる三弦橋を見に行くにはどうすればよいのだろうか。これまで一般的な眺望ポイントは、シューパロ湖岸を通る国道452号線沿い、大夕張ダム付近の大夕張ダム管理所横だった。しかし2011年12月16日、ショートカットする形でシューパロトンネル(2310m)が開通し国道452号線が付け替えられてしまった。加えて、旧国道は工事関係者以外立ち入り禁止となったため、訪れることが困難となった。
そこで、旧国道を通り大夕張ダム管理所を訪れるには許可が必要である。まず、シューパロトンネル南側入口付近の三菱大夕張鉄道車両保存地(旧・南大夕張駅)に隣接する「夕張シューパロダムインフォメーションセンター」を訪れる。来場者名簿に氏名・住所・目的などを記入、ルートや大夕張ダム管理所の電話番号を教えてもらう。今から訪れる旨連絡してから、通行規制のある旧国道を通り、大夕張ダム管理所へと進んでいく。
大夕張ダム管理所までのルートは、夕張シューパロダムインフォメーションセンターから国道452号線を北上。シューパロトンネルを抜けてさらに2kmほど行くと、「夕張岳 大夕張ダム」と書かれた看板があるので、右折し砂利道を下り、つきあたりを右折。その道路が旧国道なのでひたすら進む。ヒグマの目撃情報が相次いでいるため途中停車は控えたほうがよい。
▼(1)国道452号線から砂利道へ、(2)つきあたりを右折、(3)旧国道を南下
▼GoogleMapの赤色(夕張シューパロダムインフォメーションセンター)を起点にいったん北上、黄色のポイントを通り、緑色(大夕張ダム管理所)までたどる
より大きな地図で 夕張シューパロダム建設に伴う水没構築物 を表示
大夕張ダム管理所からは三弦橋(第1号橋梁)のほか、第2号橋梁、第3号橋梁、第4号橋梁も対岸に見ることができる。大夕張ダム管理所の2階に行けば大夕張ダムの「ダムカード」を頂くこともできる。間もなく水没してしまうダムなので記念に持って行く人も多いという。また、この管理所からは三弦橋だけでなく、既存の大夕張ダムとその奥で建設中の夕張シューパロダムの両方を見ることができる。ダムをダブルで見られるこの光景は非常に珍しいという。これを見られるのもあとわずか。必見である。
▼大夕張ダム管理所、旧国道シューパロトンネルは水没する
三弦橋を間近に見られるのは2013年8月末まで
いつまで三弦橋を間近で見ることができるのだろうか。夕張シューパロダムインフォメーションセンターによれば、大夕張ダム管理所へ通じる旧国道は2013年8月末をもって閉じられることとなる。すなわち、9月以降は正規のルートで三弦橋付近へ行くことはできなくなる。2013年には夕張シューパロダムが完成。2014年春から試験貯水を行いダムに異常がないかのチェックを行うため、このころには三弦橋はシューパロ湖に沈んでしまう。つまり、2013年夏が最後の機会になるだろう。なお、付け替えられた新国道は高い位置を走っており、展望駐車場から遠くに三弦橋を眺めることは可能だ(写真)。
大夕張ダム、旭沢橋梁、白銀橋、鹿島橋も水没
夕張シューパロダム竣工とシューパロ湖の水位上昇に伴い水没してしまうものは三弦橋に限った話ではない。旧森林鉄道夕張岳線の第2号橋梁から第6号橋梁までも沈んでしまう。少し北側の鹿島明石町にある三菱石炭鉱業大夕張鉄道線トラスド・ガーダー橋「旭沢橋梁」(1928年建設・72.3m)もその一つ。北海道遺産の空知炭鉱関連施設の一つにも含められている特徴的な橋梁だが、これもシューパロ湖に水没する。
夕張岳登山口に至る市道奥鹿島線も低い部分は水没となる(それに伴い夕張岳登山口に続く道路の付け替え工事・橋の建設工事が行われている)。この市道は細い砂利道であり、入口にある「白銀橋」(1968年竣工)や途中にある「鹿島一号橋」も水没してしまう。なお、一般車両は通行可能だが、トラックの往来が多いため注意が必要。さらに北に架かる市道の橋「鹿島橋」(1961年竣工)も水没となる。
▼市道奥鹿島線の白銀橋
▼市道奥鹿島線の付け替え工事が進む
驚くべきことに、新ダムは大夕張ダムと大夕張ダム管理所のある場所さえも飲みこんでしまう。新ダムが旧ダムを水没させるのは極めて異例。これによりシューパロ湖の水位は30m以上上昇し、朱鞠内湖に次いで日本第二位の面積を誇ることとなる。水没まで残された時はわずか。是非一度、かつて賑わっていた大夕張・鹿島地区を訪れて、その最後の風景を目に焼き付けていただきたい。
協力:夕張シューパロダムインフォメーションセンター、大夕張ダム管理所、 詳細資料