源義経(みなもとのよしつね)。平安時代の武将で、兄の源頼朝に追われ、
1189年に岩手県奥州市で自害したという歴史上の人物ですが、実は生き延
びていて、津軽海峡を渡って蝦夷地に入ったという伝説が残されています。
これは義経伝説最大のミステリーとして「義経不死伝説」「義経北行伝説」
「源義経北行説」「義経入夷伝説」と言われています。
歴史的にみると、早くも室町時代初期に松前広次が「九郎判官義経が渡
りました蝦夷が島」と蝦夷地のことを述べているほか、1670年ごろには江
戸時代の林羅山が残した本の中で、「義経衣川で死せず、逃れて蝦夷島に
至り、その種存す」と記しており、義経が北海道に渡ったという伝説が広
まっていたことがわかります。今回は、その北海道に残る義経伝説を紹介
します。
北海道の義経伝説の数々
全国にもたくさんの義経の名前がついた名所がありますが、道内にも約
120以上あるといわれています。そのほとんどが道南、それも日本海側に
多くあります。一例をご紹介しましょう。
函館市:船魂神社義経腰掛の松
松前町:光善寺境内義経山の碑
江差町:鴎島義経の馬岩
乙部町:六条の森・竹森・姫待ち峠・九郎岳・姫川
■後志
寿都町:弁慶の相撲場・弁慶岬・寿都湾弁慶まつり
岩内町:刀掛岩・薪積岩・メヌカ岩・雷電・悲恋の穴
泊村:カブト岩
積丹町:メヌカ岩・神威岩・メノコ岩(シララ姫伝説)
■石狩
札幌市:義経石と埋蔵金
石狩市厚田:義経の涙岩
恵庭市:恵庭渓谷ラルマナイ滝
■胆振日高
壮瞥町:キムンドの滝
厚真町:義経とう留地
むかわ町:義経の魚釣り場
平取町:義経神社・義経公園・常磐御前碑・静御前碑・義経峠
新冠町:判官館森林公園
様似町:オソロコツ義経の尻もち
■十勝
大樹町:義経の矢
豊頃町:義経上陸地
中札内村:弁慶の尻もち跡
本別町:義経山神社・義経山鎧岩・源氏山
■根釧オホーツク
白糠町:義経の尻もち跡
釧路市:義経と弁慶の弓勢競争・義経の窓岩
弟子屈町:屈斜路湖和琴半島義経岩と弁当石
羅臼町:義経しりもち岩
斜里町:義経の避難地
■道北
旭川市:義経岩(神居岩)
東神楽町:義経台
稚内市:義経試し切りの岩
一般に唱えられているルートとは、青森の竜飛から福島に渡り、日本海
側を松前、江差、寿都、岩内と進み、洞爺湖、支笏湖、平取、新冠、留萌
に至ります。道内最大の伝説があるのが平取町で、義経資料館もあります。
それは平取のアイヌの酋長のもとに定住し、アイヌに神(カムイ)として尊
敬されたということによります。
留萌・稚内まで到達した後、大陸に渡り、チンギスハンになったという
説もありますが、科学的には否定されています。
これらの伝説にはいくつかの共通点があったりします。恋愛、黄金、隠
れ里、巻物盗みです。たとえば、岩内町のメヌカ岩は、義経と恋仲だった
娘が海に身を投げたという伝説があります。アイヌの娘が関係するのはメ
ヌカ、チャレンカ、シララが代表的です。
恵庭渓谷のラルマナイ滝は財宝を埋めたという黄金伝説があります。本
別町本別公園弁慶洞は弁慶たちが一冬すごしたという隠れ里伝説がありま
す。太平洋側では、義経がアイヌの秘法の巻物を盗んだためにアイヌ民族
に文字がなくなったという巻物盗みが伝わっています。
アイヌが関係している義経伝説
地名の由来としては、たとえば岩内町の「雷電」は、別れを惜しむメヌ
カが来年まで待っているという言葉が転化したといわれており、また、川
上という意味に「ペンケ」が「弁慶」に似ていることから、弁慶という地
名も多くみられています。
アイヌが関係しています。たとえば旭川市の神居古潭の旧称義経岩はア
イヌの人たちの神聖な場所となってきました。義経のことをホンカンカム
イ、英雄神オキクルミと呼んでいたとされています。
それ以上に重要なこととして、アイヌの英雄伝説が深く関係していると
いうことです。道内の義経伝説の多くは、もとからあったアイヌの伝説を
作り変えたともいわれています。これは、和人がアイヌの人たちを支配す
る同化政策の一環だったとされています。