申年。何かと「サル」に縁の深い年になりそうです。函館市熱帯植物園の温泉サルたちは申年にぴったりですが、ほかに「サル」と「北海道」で思い浮かぶことは何かありませんか? 北海道弁のあれ・・・「○○さる」ですよ! 道民は当たり前のように使っていますが、実はこれ標準語ではありません。
「○○さる」の意味とは?
北海道民はよく「○○さる」「○○さった」という言葉を使います。「押ささる」や「押ささった」というように使われます。このように「押す」という動詞に「さる」をつけて変化させた自発的表現を道民や東北北部の人たちの間ではよく使います。
ではこの「○○さる」とはどういう意味なのでしょうか? 簡単に言うと、「意思に反して」「わざとではなく」「意図せずに」「不可抗力で」「勝手に」「そのつもりではなく」「状況ゆえに自動的にそうなる」ということを伝えたいときに使います。また、「○○できる」「可能である」という意味でも使われます。
(1)意思に反して不可抗力で「○○される」
(2)可能であることを示す「○○できる」
この表現には、対象物が悪いのであって自分は悪くないと責任回避する意味合いや、特定の誰かを責めることなく対象物がある状態になっていることを示す意味合いが含められており、使いやすい言葉となっています。
意思に反してボタンが押されてしまった「押ささる」
例えば「押ささる」「押ささった」「押ささっちゃった」という言葉は、下記のように使われます。「押ささった」のほうがよく使われます。
・目当てのアイコンにうまくタップできず別のアイコンが「押ささった」
・背中がエレベーターのボタンに触れて違う階のボタンが「押ささった」
・自分の肘が触れてスイッチが「押ささって」電気が消えてしまった
皆さんもこのように意図せずにしてしまった経験はありませんか? 要するに、「押すつもりはなかったんだけど、自分の意思とは関係なく押されてしまった」という考えを伝えています。この場合、北海道弁では「押ささった」の五文字で対応可能です。
意味合い的には標準語の「ボタンを押してしまった」「ボタンが押される」という表現に近いのですが、自分が主語であったり、意思をもって押したことがなんとなく伝わってしまいますので、厳密には意味を正確に伝えきれていません。ですから「押ささる」は「押してしまった」「押される」とイコールではありません。「押ささる」は「押ささる」であり、他に適当な言葉が思い浮かびません。
道民も、自分が意思をもって押すときは「ボタン『を』押す(押してしまう)」、誰かが押したときは「押される」を使います。それとは別に、自分の意思に反する場合には「ボタン『が』押ささった」を使いわけているのです。
ほかにも、最初に述べた「○○できる」「可能である」という(2)の意味で「押ささる」を使う場合もあります。反応しないボタンに対して別のボタンは「押ささるよ」、つまり押すことができるよ、押せるよ、と同義のように使われます。また、「押ささっている」という場合は、押されたままの状態になっている、という意味合いがあります。
押してるのにボタンに原因があるのか「押ささんない」
逆に、否定形の「押ささんない」「押ささらない」。これは、ボタンを何度も押そうとしているんですが、壊れているんでしょうか、なかなか反応してくれない、という意味を伝える言葉です。
「押すことができない」「押せない」という標準語はこれに対応しないのでしょうか? もしこの言葉を使うと、そもそもボタンに触れないので自分では押すことが不可能、自分に押せない理由がある、とも解釈できてしまうでしょう。
でも「押ささらない」は、自分は押す行為はしていますが、押した結果になってくれない、ボタンに原因があるので結果的に押したことになっていない、という意味で使われます。ですから「押ささらない」は「押せない」とイコールではありません。
「押ささる」以外にもこんな場面で使われる
「押ささる」は、意図せずに不可抗力でなされることが多いため、道民の間でもよく使われる言葉ですが、ほかにも使われる回数が多い言葉としては「書かさる」があります。
(1)書くつもりがなかったところに意図せず書いてしまった、
・「あ、はみだして変なところに書かさっちゃった」
(2)書くことができる
・「このボールペンまだ書かさるわー」
「書かさらない」=書こうとしているのにインクがないのか書くことができない状態
・「このボールペン、ぜんぜん書かさらないわー」
それ以外にも道民の間で使われる言葉として下記の事例があります。
「もったいない」を伝える英単語がないように、北海道弁の「○○さる」は他の言葉で置き換えることのできない便利な言葉です。これがなければ大変不便。そろそろ標準語にすべきと強く主張する道民も中にはいるほどです。便利すぎる北海道弁「○○さる」を是非使って広めていただければ幸いです。