なかなか予約が取れない!いわない温泉郷・髙島旅館が人気である理由

札幌市から約2時間の場所にある、岩内町のいわない温泉郷。そこに予約受付は電話のみ、それでもなかなか予約が取れない人気の宿と評判の髙島旅館があります。その人気の秘訣を探るべく、ちょうど1年前に4代目当主となった髙島将人さんにお話を伺いました。

▼いわない温泉郷髙島旅館、ロビーと暖炉、四代目当主髙島将人さん

島牧村から岩内町へ

髙島旅館のルーツは島牧村にあり、初代当主である髙島さんの曾祖母が島牧村で旅館を創業したのが始まりです。島牧村時代から数えると宿として86年の歴史があり、先代の当主の時代に企業誘致に応える形で岩内町に進出、1998年から現在の場所で営業を始めました。先代のご夫婦は島牧と岩内でそれぞれ1軒ずつ旅館を経営していましたが、数年で岩内に一本化し、今に至ります。

旅館の当主の息子として育った髙島さんですが、子どもの頃から起業したいという夢はあったものの、旅館を継ぐという選択肢は全くなかったと話します。小学校卒業と同時に親元を離れて学生時代を過ごし、その間に派遣などで様々な業種を経験するも、接客業は選ばなかったそうです。

転機となったのは肉屋でアルバイトを始めた時。その肉屋の店長が居酒屋も経営していたため、初めて接客業の仕事をすることになりました。100種類以上のメニューを手作りで出しているそのお店で包丁さばきを一から学び、正社員になって調理師免許まで取得。同時にお客さんと触れ合う仕事が非常に楽しく、次第に接客業を自分の仕事にしよう、旅館を継ごうという思いが固まってきました。

居酒屋時代のお話で興味深いのは、店長に「自分がしている仕事を任せられる正社員を1人雇って欲しい」とお願いをしたというエピソードです。その理由は「店長はずっと調理をしていて接客ができない。店長が調理場でしている仕事を自分が代わりにして、自分やアルバイトではなく店長本人がお客さんと直接会うようになれば、お店の売上はもっと伸びるだろう」というものでした。

髙島旅館では当主自ら宿泊客を出迎え、お部屋まで案内します。髙島さんはそうやってお客さんと直接顔を合わせることを大切にしており、さらに悩んだときは「何がお客さんにとって一番優しいか」を基準に考えるのです。そんなお客さんへのおもてなしの気持ちを感じられることが人気の理由の一つだと思いますが、そのベースになっている考え方を居酒屋時代に既に持っていたことが分かります。

旅館を継ぐ意思を固めた髙島さんは、27 歳で学生に戻って専門学校で観光学を学び、さらに有馬温泉の旅館に修行へ。有馬温泉で宿を1軒任されるなどの経験を重ねて帰道し、先代である父親の会社をそのまま継ぐのではなく、自分の会社を立ち上げて先代から旅館を買い取る形で4代目当主となりました。

こだわりの料理

髙島旅館を知っている方の多くは「アワビがたくさん出てくる宿」という印象を持っておられるかもしれません。確かに刺身で・鍋で・焼いてアワビを堪能することができますので、ひとまずその印象通りと言って良いかもしれません。しかし、髙島旅館の料理を語るのにそれだけでは不十分です。

今回用意していただいた「おまかせプラン」では、エビや北寄貝等の御造り、アワビやタチなどの鍋、アワビとつぶ貝の浜焼き、茹で毛ガニなどが並びます。さらに食事の途中でアワビの刺身とヒラメの活造り、焼魚が運ばれてきます。アワビやヒラメなどは前浜産でいずれも鮮度は抜群です。

▼板長と高島さん弟

▼夕食の御造り

▼夕食のヒラメの活き造り

▼夕食の焼用アワビと茹で毛蟹

▼夕食の鍋具材

以前はこのような食材を使って懐石料理のような内容で料理を出していたそうですが、お客さんとして宿泊した地元の漁師さんの「自分たちが命を懸けて獲ってきたものだから、必要以上に手を加えないでほしい」という意見にはっとさせられました。そこで、新鮮な食材をできるだけ素材の味を生かす方法で、さらに地元の漁師さんが食べている方法でお客さんに提供するよう方針転換。手を加えて調理する際にも油と砂糖は使わないという隠れたこだわりをもち、身体に優しい料理となっています。

▼焼き魚と島牧村産ゆめぴりかのご飯

さらに、食事の途中で運ばれてくるご飯は髙島さんの親族が島牧村で作っているゆめぴりか。機械を使わず手間をかけて天日干しで自然乾燥させた「はさかけ米」を使用していて、美味しさをしっかり感じられるお米です。

▼島牧ワイン

おまかせプランでは食前酒として島牧ワインのハーフボトルが1本つきますが、このワインも近郊の大手ワインメーカーに特注で醸造をお願いしているもの。 一つ一つにこだわりを感じられると同時に、髙島旅館のルーツが島牧村にあることを改めて印象付ける食事となりました。

温泉も鮮度の良さが自慢!

髙島旅館の温泉も鮮度の良さが感じられる上質のものです。 使える温泉の湯量をもとに計算し湯船の大きさを決めたということで、お湯の良さを最大限に生かす工夫が設計段階からなされています。

源泉温度が高いため熱交換器で温度を下げていますが、館内に温泉を溜めるタンクを持っていないため、源泉が直接湯船に注がれます。この方式にすると湯船へのお湯の投入量を変えることが温度管理の唯一の方法となるために難しさが増し、経験が求められますが、冬季でも快適に湯浴みを楽しむことができます。

泉質はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉。「三大美肌泉質」の1つであり肌のクレンジング効果が期待できる炭酸水素塩泉と、保温効果がある塩化物泉で、よくリンスインシャンプーに例えられる女性にも嬉しい泉質のお湯です。 また分析書をよく読むと、三大美肌泉質の1つであり肌に潤いを与える「硫酸塩泉」もあと一息で泉質名になりそうなほどの割合で含まれており、隠れキャラクターのような存在となっています。

浴室は男女とも内風呂と露天風呂があります。比較的コンパクトな湯殿ですが、日帰り入浴を行なっておらず宿泊客のみの利用のため、混雑することはありません。館内の雰囲気と調和した木をふんだんに使った湯殿で、鮮度が高く優しい温泉にゆっくりと浸かることができます。分析書を見て期待できる湯の感触を実際に浸かって肌で感じることができるのは、温泉好きにとっても嬉しいポイント。 身体にも心にも沁み入るお湯の良さも、髙島旅館の自慢と言って良いでしょう。

これからの髙島旅館にも期待

お客さんの立場に立って温泉宿を運営する4代目当主、地元産の食材を素材の良さをそのまま活かして提供している料理、こだわりのかけ流しの温泉。 髙島旅館にはお客さんが湯宿に求めるものが揃っていて、人気の温泉宿である理由がよくわかりました。

髙島さんは有馬温泉で修業した際、有馬を出ず同じ場所で800年以上も家業として代を紡いでいく方法と、自身の宿をしっかり運営しながらも温泉街として地域の価値をさらに高めてゆくやり方を学べたことが大きかったと話しており、その経験を岩内町でも活かしたいと考えています。次の代に繋げるために当主として髙島旅館を運営しつつ、お客さんが宿を出ても楽しめる場所をできるだけ早い時期に作りたいと考えているそうです。

そんな髙島旅館といわない温泉郷のこれからがさらに楽しみになりました。

いわない温泉 髙島旅館
岩内郡岩内町野束505
電話:0135-61-2222
チェックイン15:00、チェックアウト10:00
夕食の開始時間 17:30~19:00(部屋食)
朝食の開始時間 7:30~(レストラン)
入浴時間 15:00~翌朝9:30 (22:00〜翌朝6:30は内風呂のみ利用可)