【江差町】江差の海の男たちが力を合わせて行う、「瓶子岩(へいしいわ)」の大しめ縄飾り。かもめ島前浜にそびえ立つ瓶子岩にかかるしめ縄を、1年に1回交換する作業です。毎年7月初旬に行われるこの伝統神事を、2015年7月4日、見てきました。4時間に及ぶ大作業のダイジェストをお伝えします。
道内でも数少ない海の祭典
江差のシンボル、かもめ島の前浜にそびえ立つ「瓶子岩」は、江差の漁師たちの守り神的存在である伝説の岩です。毎年、かもめ島祭りが行われる7月の第1土・日曜に、瓶子岩にかけられている大しめ縄の交換作業が行われます。80年以上続いている江差の海の祭典。海の祭典自体が、道内で珍しい存在だそうです。
漁師たちが当日行うしめ縄なえ
新しいしめ縄は、細い縄とわらを使って、20~30人の漁師たちが力を合わせて作り上げていきます。完成したしめ縄は、長さ約30メートル、重さ約500kg。これを前浜から瓶子岩まで板状の船で運びます。体を清め、下帯姿1つの若者たちが浜から岩まで泳ぎ、岩に登って付け替え作業をします。
▼新しいしめ縄作り
頑丈なしめ縄はこう作る
青空に澄んだ空気という、江差の町と海の魅力が最高に引き出される天気のこの日、強い日差しの中で漁師の方々がしめ縄作りに取り組みました。
細い縄を束ねて、それでわらを包み、太いしめ縄を作ります。これを全部で3本作成。この3本をよりあわせて、さらに太いしめ縄を作ります。太いしめ縄をよっていく作業は、非常な力仕事。かけ声をかけながら進めていきます。完成したときには「(手のひらに)豆できた!」「もう来年までねえって!」などの声が上がり、皆さんから笑顔がこぼれました。
▼細い縄を束ねていく作業
▼束ねた縄でわらを包んで縛っていく。これを3本作る
▼しめ縄3本できあがり
▼太いしめ縄3本をよりあわせる作業
スタートから終了まで4時間
太いしめ縄を完成させる合間には、しめ縄から垂らすロープの作成作業も。漁師さんたちがしばし休憩しているかたわらでは、江差沖揚げ音頭保存会による沖揚げ音頭も披露され、かつて江差の町を支えたニシン漁の様子を生き生きと伝えました。
▼しめ縄から垂らす細い縄をよる作業も同時進行
▼ニシン漁の様子を表現した「江差沖揚げ音頭」
いよいよできあがったしめ縄を皆でかついで板状の船に乗せ、瓶子岩の下へ。身体を清めた若者たちが泳いで岩までたどりつき、次々と登っていきました。見ているととてもハラハラする作業。岩上の人たちからは笑顔や笑い声もこぼれていますが、その裏で気持ちをしっかり張りながら作業されているのでしょう。
夫が岩に上っているという、1歳の女の子を連れた女性は「もう十数回経験しているようなので、特に心配はしていません。みんな、毎年の作業で危ないポイントもわかっているのでしょう」と話しました。それでも、海の中の10メートルの高さの岩に、下帯だけの姿の夫が上って作業することは心配なはず。それを出さず落ち着いて話す様子に、海を守る行事に携わる誇りを感じました。
▼しめ縄を運ぶ
▼お清めを受ける若者たち。鳥居をくぐって瓶子岩まで泳ぐ
▼しめ縄の取り付け作業
▼江差神楽奉納
しめ縄作りスタートから、しめ縄を飾って江差神楽を奉納するまでは4時間ほど。海上安全、家内安全、豊漁の願いを込め、丁寧な作業で作り上げる印象深い伝統神事でした。
かもめ島散策もおすすめ
2015年は、慶長20年(元和元年、1615年)にかもめ島の上に厳島神社が建てられ400年の記念の年。4月には、神社と瓶子岩を望む方角に向け海上に鳥居が設置され、新鮮な雰囲気を醸し出しています。
しめ縄交換を見届けた後は、かもめ島を散策しました。今回は島の東側、波の浸食の跡で無数の畳を敷きつめたような地形になっている「千畳敷」に下りていってみました。足元に気をつけて降りていくと、どこか遠い知らないところに来たような、不思議な空間に入り込んだような気持ちになります。天気の良い日に江差を訪れたら、ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。