数百羽が海面すれすれを飛び本州を目指す!松前町白神岬の海峡渡り

北海道本土最南端の地、白神岬(渡島管内松前町)。津軽海峡の向こうに津軽半島を望むこの岬では、10月中旬~から約1ヵ月間、「海峡渡り」と呼ばれるヒヨドリの渡りが見られます。海面すれすれを数百羽の群れを成して渡っていくその姿は、ここ白神岬ならではの秋の風物詩。今回編集部は、ヒヨドリの命がけの渡りの様子に密着しました。

「渡り鳥のサンクチュアリ」としての白神岬

▼白神岬

アイヌ語で「シラルカムイ(岩の神が住むところ)」と呼ばれてきた白神岬(しらかみみさき)。北海道最南端の岬であり、松前半島の最南端の地として有名ですが、渡り鳥のサンクチュアリ(聖地)としての一面もあります。南に津軽海峡、東に太平洋、西に日本海と三方を海に囲まれる地理的要因も手伝い、日本屈指の渡り鳥の休憩地となっており、北海道から津軽海峡を越えて本州に向かう渡り鳥が300種類以上も確認されているのです。

「北海道最南端の碑」がある白神岬駐車場から松前町市街に約1.5㎞進むと「白神岬展望広場」があり、バードウォッチャーが集います。10月中旬~11月中旬にかけてみられるヒヨドリの渡りを観察するのも、ここがベストです。

▼白神岬展望広場

ヒヨドリは全長約27.5㎝、翼を広げても約40㎝と、大型の鳥ではありません。普段は市街地や山地に生息していますが、秋になると暖かい地方に集団で移動し、春になると北へ戻る姿が確認されています。

▼白神岬上空を飛ぶヒヨドリ

秋のヒヨドリは、道内各地から地球岬(室蘭市)、噴火湾を渡り砂原砂崎(森町)、駒ヶ岳(森町・七飯町・鹿部町)、矢越岬(知内町・福島町)を経て白神岬に集まってくることが多いようです。集結する個体数はざっと5万羽を超えるのではとの声がありますが、正確な調査結果があるわけではなく不明です。

次から次へと海に向かうヒヨドリの群れ

「ピッピッピピピ」。早朝、空が明るくなってきたころ、白神岬周辺の崖が騒がしくなりはじめます。ヒヨドリが群れをつくって、海岸上空を鳴きながら飛び回っているのです。

▼早朝に群れをつくり飛び回るヒヨドリ

この日、ヒヨドリの最初の群れを確認したのは6:15。上昇、急下降を繰り返すほか、海上に出たと思ったら再度陸上に戻るという行動を繰り返します。約10分後、一気に海へ飛び立ち、海岸から数百メートル先で海面に向かって急降下。海面すれすれを飛び、19.2㎞先にある津軽半島の北端、竜飛埼を目指しました。ヒヨドリの群れは順調なら2時間ほどかけて竜飛埼に到着するとみられています。

第一陣の後は、約5分おきに数百羽の群れが対岸を目指して飛んでいきました。次第に群れが飛ぶ間隔も広がり、9:00までの3時間で25回近い渡りを確認しました。

海面すれすれを飛ぶのには理由があります。岬に住み着いているハヤブサなど猛禽類から身を守るためといわれています。ヒヨドリの体色は灰色。海面近くを飛ぶことで上空から見えにくくなり、襲われにくくなるそうです。また、波のうねりによって発生する海面近くの小さな上昇気流を利用することができ、省エネな渡りができるとされています。

【動画】ヒヨドリの海峡渡りの様子

毎日早朝に渡るわけではないので見られたらラッキー!

ヒヨドリの海峡渡りは毎日見られるわけではありません。主に天候が関係しています。当日晴れていること、強風ではないことが主な条件ですが、前日の気象条件も大きな影響があると考えられています。

専門家によれば、雨天で対岸(竜飛埼)が見えない時に渡っていった姿を見たことがないことから、視界良好かどうかはヒヨドリの場合重要な要素としています。また、波による上昇気流を利用するため、その影響があるかどうかは渡りをするかどうかの重要な要素といえそうです。

夕方に白神岬に着いた群れは翌朝に渡るのが基本。悪天候が続けば、白神岬で数日間渡りを待っている個体数は多くなり、早朝から飛ぶ群れが多くなります。白神岬ではなく周辺地域で夜を過ごした群れは、午前中に白神岬に到着して昼過ぎに飛んでいくケースもあり、ピークは異なります。

ヒヨドリの海峡渡りを観察したい方は、前日が荒天ではなく、当日も晴れていて強風ではなさそうな場合、早朝めがけて行ってみてください。青森へ向かって旅立つヒヨドリの群れを見ていると、きっと応援したくなりますよ。

取材協力
松前町商工観光課
道南バンディング研究会