楽しい楽しい修学旅行。道民の皆さんは、中学生時代に修学旅行(または見学旅行)でどこへ行った記憶があるだろうか。聞いてみると、実はそれぞれ違った答えが返ってくる。札幌近郊と答える人もいれば、道南と答える人、東北と答える人、若年層では関東だったという人もいる。ただでさえ広い北海道では、地域によってそれぞれ行き先が異なる。道内を行き先とする中学校もあるのが、他都府県と異なる点だ。
では、「道内の中学校の修学旅行の行き先は、道内と道外どっちが多いのか」「道内に行く地域と道外に行く地域との境界はどこなのか」、気になったことはないだろうか。今回は道内の中学校の修学旅行の行き先を中心に道内の修学旅行事情を特集する。
中学校の修学旅行の行き先は約半数が道内、次に東北
まずは、道内の中学校の修学旅行の行き先では、道内と道外どちらが多いのだろうか。財団法人日本修学旅行協会発行「教育旅行白書2009年版」の2008年の調査によれば、道内中学校は、約半数の48.4%(147件)が道内を行き先に設定している(同一都道府県内は全国一)。その次に東北地方で41.1%(125件)、大きく引き離して関東4.6%(14件)、九州2%(6件)、近畿1.6%(5件)、中国1.3%(4件)、中部1%(3件)と続き、四国や沖縄はない。東北地方については、青森県・岩手県・秋田県の東北3県を訪問先としている例が圧倒的に多い。
国内:北海道147件、岩手県58件、青森県35件、秋田県25件、東京都8件、宮城県7件、神奈川県4件、広島県4件、長崎県4件、京都府3件、千葉県2件、長野県2件、大阪府2件、佐賀県1件、福岡県1件、山梨県1件
海外:カナダ3件、アメリカ2件、韓国1件、ニュージーランド1件
北海道観光振興機構発行「道内中学校教育旅行動向調査報告書(概要版)」の2010年の調査でも同じ傾向がみられた。道内が42.5%(111件)で最多、東北と道内の組み合わせが9.6%(25件)、東北が37.5%(98件)、関東が9.6%(25件)、関西が0.8%(2件)で、道内が最多で東北が僅差で続くという傾向は変わらない。
道北・道東の中学校は道内へ、道央・道南は東北・関東へ
では、道内を行き先とする中学校と道外を行き先とする中学校の境界線はどこなのだろうか。同資料の2010年の調査によれば、道東や道北の中学校は道内で修学旅行をすることが多い。道央圏以南では道内を行き先とすることはほとんどなく、北海道を飛び出して東北や関東へ行くことが多い。東北を行き先とする場合、函館と組み合わせて実施する場合もある(東北2泊・函館1泊など)。また、わずかながら関西に行く学校もあるのが分かる。渡島管内では逆に札幌圏に行く学校もある。
▼道東
・根室管内:11件すべて道内
・釧路管内:16件すべて道内
・網走管内:22件すべて道内
・十勝管内:道内11件、東北と函館3件、関東1件
▼道北
・宗谷管内:11件すべて道内
・留萌管内:7件すべて道内
・上川管内:道内29件、東北と函館1件、関東1件
▼道央
・空知管内:東北と函館9件、東北6件、関東6件
・石狩管内:道内1件、東北と函館2件、東北39件、関東11件、関西2件
・後志管内:道内2件、東北と函館6件、東北8件、関東2件
・日高管内:東北と函館4件、東北1件、関東1件
・胆振管内:24件すべて東北
▼道南
・渡島管内:道内1件、東北15件、関東3件
・檜山管内:5件すべて東北
まとめると、根室・釧路・オホーツク・宗谷・留萌は道内(旭川~札幌圏~後志~函館)、上川・十勝で道内と道外の混在が見られるようになり、道央(空知・石狩・後志・日高・胆振)や道南(渡島・檜山)ではほとんどが道外に出るという結果になった。概ね増毛~上川中南部~十勝のラインを境に道内・道外の違いが出ることになる。では、最近の傾向について地域別に詳しく見ていこう。
道東地域の中学校は十勝地方を除き道内
まずは道東。根室管内の中学校の行き先は札幌圏と後志が中心。札幌からの移動距離が長いこともあり、中には札幌から旭川市旭山動物園を経由する例もある(別海町・中標津町のある学校)。釧路管内の中学校は札幌圏と後志(ニセコ・ルスツ・小樽)が中心。オホーツク管内でも札幌圏と後志(ニセコ・ルスツ・小樽)が中心で、札幌圏と合わせて函館に行く例もある(遠軽町・訓子府町のある学校)。
十勝管内は少し複雑で、帯広市内は札幌・後志(ニセコ・ルスツ・小樽)から道南函館にかけてが中心で東北を訪れることはない。帯広以外でも同じ傾向があるが(浦幌町・上士幌町のある学校)、東北や東北と道南函館の組み合わせ(幕別町・本別町・芽室町・豊頃町・音更町・鹿追町のある学校)や、一部で関東まで行くようになった中学校もある(音更町のある学校)。
道北地域の中学校は上川地方を除き道内
次に道北。留萌管内や宗谷管内は札幌圏や道南函館、胆振(白老・登別・洞爺湖)や後志(ルスツ・小樽)が中心。中には旭川市旭山動物園も併せていく例(利尻富士町のある学校)、フェリーの関係で最終日に稚内でボーリングする例(礼文町のある学校)もある。
上川管内は南北に細長いこともあり様々。道南函館から後志(ルスツ・ニセコ)が中心だが、旭川から南部にかけては一部で東北へ行く例(旭川市・中富良野町のある学校)や、姉妹都市提携の縁で広島県や岡山県を訪れる例もある(幌加内町のある学校)。
道央地域の中学校はほとんど道外
続いて道央。空知管内では基本的に道外に出る。行き先は東北地方を中心とし、道南函館と東北の組み合わせも見られ(新十津川町・栗山町のある学校)、関東に行くようになった例も多い(夕張市・三笠市・長沼町・栗山町・北竜町・沼田町・由仁町のある学校)。石狩管内も基本的に道外に出る。札幌市内では東北地方が中心で、道南函館と東北の組み合わせも多い。中には関東や関西(北広島市・千歳市・石狩市・江別市・当別町のある学校)の例もある。
後志管内も基本的に道外に出る。行き先は東北が多く、関東に行く例も割合多く見られ(小樽市・ニセコ町・積丹町のある学校)、関西の例(留寿都村のある学校)や、姉妹都市提携の縁で広島県や愛媛県を訪れた学校もある(黒松内町のある学校)。日高管内や胆振管内は東北や関東がほとんど。距離制限が撤廃された苫小牧市では関東を行き先とする学校が多数となった。
道南地域の中学校はほとんど道外
最後に道南。行き先としては東北や関東が多いが、札幌圏・後志を行き先としてきた中学校もわずかにある。距離制限を撤廃した函館市では、行き先を東北とする例と関東にする例がほとんどである。檜山管内は東北が多く、関東を行き先にする学校は渡島管内で顕著である。
ここまでで、地域別の行き先についてみてきた。中学校の修学旅行で道内を行き先とする場合、札幌市、小樽市、函館市などの都市部で自主研修を行い、ルスツリゾートで遊び、ニセコでラフティングなどを楽しむという例が多い。最近では札幌ドームで野球観戦というパターンもある。また、地元のPR活動を兼ねる場合もあり、例えば稚内市のある学校は、宗谷の海産物をPRするために宗谷産活ホタテの販売実習活動を札幌市内で行っている。道南を訪れる際には1993年の北海道南西沖地震を教訓にするべく奥尻島へ渡る学校もある(札幌市・旭川市のある学校)。函館山を訪れると生徒全員で合唱を行うという学校もある。
修学旅行実施基準で決められる行き先
ここまでのデータを見ると、距離に応じて道内か道外か決められているようにも見える。そこで、触れておかなければならないのが「修学旅行実施基準」である。これが行き先を決めるのに大きく関係する。基準は市町村教育委員会が定めることになっており、各市町村により異なる。
旅行の範囲つまり行き先は『全行程1000km以内』(鷹栖町)『全行程1200km程度』(中川町)などと距離が決められてきたが、近年、苫小牧市や函館市や小樽市のように距離制限を廃止する自治体も出てきた。これにより、例えば苫小牧市では2010年までは東北がメインだったが、2013年度には市内15校のうち3分の2にあたる10校が関東を選択するようになっている。札幌市の場合、行き先は道内、東北、関東のいずれかと定めた(2014年度以降)。
現地までの交通手段も制限がある。道内ではJRを利用する例が最も多く(往路63.5%・復路53.8%、2008年)、続いてバス(往路23.1%・復路30.8%、2008年)の順である。しかし近年では、従来の鉄道やバスやフェリーに加え、航空機利用を認める例も多くなってきている。札幌市でも2014年度以降は航空機利用を解禁。2015年度の北海道新幹線開通も含め、行き先の幅が広がることが予想される。
日数については、航空機を利用する場合経済的負担を考慮し2泊3日、その他の場合で3泊4日が多いが、離島の利尻島や礼文島では4泊5日という例もある。札幌市の場合、3泊4日以内(2014年度以降は航空機利用の場合2泊3日以内)で、旅費は33500円以内(2013年度)となっている。
このように、実施基準の距離規定、日数規定、交通手段規定によって、行き先が限定されてしまうというのが現状だ。今後も規定の見直しで行き先が変更されていくことが考えられる。
なお、修学旅行は道内の中学校89.7%が中学3年生で実施し、わずかながら実施しない中学校も存在する(2008年)。生徒数の少ない過疎地の中学校では、2・3年が隔年で実施したり(羽幌町のある学校)、近隣中学校との合同修学旅行として実施している例(壮瞥町のある学校)もあった。
実施時期については5~6月が圧倒的に多い。特に航空機を利用する場合は、6月以降は割高になってしまうため5月中に出発することにしている学校が多い。例えば、距離制限が撤廃された小樽市では例年6月実施だったが、5月下旬出発に変更する学校が多くなった。他には、新学期早々の4月に実施する学校や、道東や道北では夏休み明けの8月下旬から9月にかけて実施する学校もある。
札幌市は中学校が約100校もある大都市だ。そんな札幌市では、毎年2月ごろに市内全中学校の修学旅行担当者が参加して、修学旅行JR抽選会が行われてきた。JRを利用する学校がほとんどである一方でJRの輸送力も限界があるため、JRをいつ利用したいかという希望を数時間かけて抽選で決めるのだ。第1希望が通ることもあるが、結果次第では日程や行程の変更や学校行事の予定変更を余儀なくされることがある。2014年度以降は航空機の使用ができるようになったため、JRを利用する学校は減少すると予想されている。
東日本大震災の影響で大多数の学校が道内に行き先を変更した
2011年、中学校の修学旅行に異変が起きた。同年3月に発生した東日本大震災である。この影響で、5月に東北地方を行き先としていたほとんどの中学校が急きょ行き先の変更を余儀なくされたのだ。当時の記録によれば、予定どおり東北としたのは3%にすぎず、道内の8割の中学校が道内に変更したという。道内の行き先は道南地方が35%で最多、続いて道央26%、道東11%、道北8%となっており、中には関西地方に変更した例もあった。
この変更は2011年だけにとどまらず、震災復興の見通しが立たず翌年も道内を行き先とした学校もある。とはいえ、従来の東北地方や関東地方に戻した学校も2012年以降多くなってきている。例えば函館市では、2011年度は市内28校のうち27校が道内だったが、2013年度までに道内は2校に激減、15校が東北に、10校が関東に戻している。
2011年度:道内27校・東北00校・関東01校
2012年度:道内22校・東北01校・関東05校
2013年度:道内02校・東北15校・関東11校
道内高等学校の修学旅行先
高校の修学旅行の行き先はどうだろうか。これについては間違いなく道外という答えになるはずだ。道内の高校の修学旅行と言えば、京都や奈良、大阪など関西や、東京など関東のイメージが強い。
高等学校の修学旅行は、道内の96.4%の高校で高校3年生が実施する(実施しない高校も一部である)。これも道の定める「修学旅行実施基準」に基づいて決定される。財団法人日本修学旅行協会発行「教育旅行白書2009年版」(2008年)によれば、道内高等学校で道内を旅行先としている高校は一件もなく、中部・四国を行き先に指定しているところもない。多いのは近畿で53.8%(212件)と約半数、続いて、関東24.9%(98件)、中国5.1%(20件)、東北1.5%(6件)、九州0.5%(2件)となった。高校では、関西や関東が圧倒的に多いことが分かる。
国内:京都府115件、沖縄県56件、東京都65件、奈良県44件、大阪府39件、千葉県32件、広島県20件、兵庫県14件、福島県6件、長崎県2件、神奈川県1件
海外:韓国12件、オーストラリア7件、ハワイ6件、アメリカ5件、中国5件、シンガポール5件、マレーシア3件、イギリス3件、フランス2件、ニュージーランド1件、カナダ1件、他5件
ここまで道内の中学校と高校の修学旅行事情であった。まとめると、道内の中学校では、道東や道北を中心に道内を行き先とし、道央や道南では東北や関東を行き先とする例が多い。高校については関東や関西を行き先とする例がほとんどである。道民の皆さんの学校はどうだっただろうか。