文化庁が平成27年度から始めている「日本遺産」という制度があるのをご存じですか。
これは、地域の歴史的な魅力や特色を通じて、我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として認定し、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の様々な文化財群を総合的に活用する取り組みを支援する、というもの。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、全国で100件程度が認定される予定です。
そんな日本遺産に、北海道では第1号に認定されたのが江差町です。一体どういう内容なのか、詳しく見ていきましょう。
- 1 日本遺産に関連する26の文化財
- 2 1 江差の町並み
- 3 2 旧中村家住宅
- 4 3 江差姥神町横山家
- 5 4 旧檜山爾志郡役所庁舎
- 6 5 かもめ島
- 7 6 折居伝説とその資料
- 8 7 瓶子岩
- 9 8 姥神大神宮
- 10 9 北前船係船柱及び同跡
- 11 10 厳島神社
- 12 11 厳島神社の石鳥居
- 13 12 厳島神社の手水石
- 14 13 かもめ島の階段跡
- 15 14 江差商人の宴席跡
- 16 15 ニシン漁と交易の古文書
- 17 16 江差沖揚音頭
- 18 17 江差鮫踊り
- 19 18 江差追分
- 20 19 江差追分踊り
- 21 20 江差三下り
- 22 21 姥神大神宮渡御祭
- 23 22 姥神大神宮祭礼山車松寳丸及び附属品
- 24 23 姥神大神宮祭礼山車神功山人形及び附属品
- 25 24 江差餅つき囃子
- 26 25 三平汁
- 27 26 ニシン漬け
日本遺産に関連する26の文化財
2017年4月28日、平成29年度に申請されていた全国79のストーリーの中から、江差町を含む17のストーリーが日本遺産として認定されました。江差町が申請していたのは「江差の五月は江戸にもない-ニシンの繁栄が息づく町-」というタイトルのストーリーです。
江戸時代から明治時代にかけて、ニシン漁によって栄えた江差町。その繁栄は江戸をも凌ぐと言われたほどでした。ニシン交易は祭礼や食など多彩な文化を生み、26の文化財として日本遺産に認定されたストーリーにも盛り込まれています。その26の文化財をひとつひとつご紹介していきましょう。
1 江差の町並み
ニシン漁とその加工品によって形成された江差の町並み。建ち並ぶ切妻屋根の建物の暖簾・看板・壁には、その家ごとの屋号が掲げられています。
2 旧中村家住宅
近江商人の大橋家が建て、後に中村家へと譲られた商家。通りに面した主屋が店と住居で、残りの3棟は漆喰塗りの蔵。屋根には若狭瓦が葺かれています。
3 江差姥神町横山家
能登商人の横山家が江差に移住して建てた商家。旧中村家と同じく、通りに面した主屋以外は、交易品などを保管する蔵が一列に建ち並んでいます。
4 旧檜山爾志郡役所庁舎
1887(明治20)年に建てられた、北海道庁の出先機関。洋風建築でありながら屋根には黒い能登瓦が葺かれ、土台には福井の笏谷石が使われています。
5 かもめ島
江差の市街地の沖に浮かぶ、南北に細長い島。天然の防波堤となって港を守り、交易発展の基となりました。→記事はこちら
6 折居伝説とその資料
(写真提供:江差町教育委員会)
江差にニシンをもたらし、ニシン漁が行われるようになった由来を語っているのが「折居伝説」です。その古文書や絵画資料が今も残されています。
7 瓶子岩
「折居伝説」の中で語られる瓶子岩。神から託された瓶子が岩に化したものだとされています。かもめ島にあります。
8 姥神大神宮
「折居伝説」に登場する神社。ニシンを招いた姥が祀っていた神像を、江差の人々が祀るようになったという由緒があります。
9 北前船係船柱及び同跡
ニシン交易船が係船した跡。かもめ島の北東に位置しています。
10 厳島神社
1615(慶長20)年に創建された神社。かもめ島に係船し、ニシン交易を担った人々が、航海安全を祈願したとされています。
11 厳島神社の石鳥居
1838(天保9)年に建立された石鳥居。加賀国橋立の船頭たちが寄進をしたとされています。
12 厳島神社の手水石
1859(安政6)年に造られた手水石。江差商人の村上家と取引のあったニシン交易船関係者が寄進をしたとされています。
13 かもめ島の階段跡
厳島神社へ参拝するための階段跡。かもめ島の島上に、江戸時代から設けられています。
14 江差商人の宴席跡
ニシン交易で利益を得た江差商人たちが宴を催した場所。かもめ島の西側に広がる「千畳敷」に8つの柱穴を掘り、宴のための仮小屋を建てていました。
15 ニシン漁と交易の古文書
(写真提供:江差町教育委員会)
江差のニシン漁とニシン交易について記録した古文書の資料の数々。
16 江差沖揚音頭
(資料提供:北海道江差町郷土資料館)
江差繁栄の基となったニシン漁の様子を唄う民俗芸能。労働歌として現在に伝えられ、北海道指定無形民俗文化財にもなっています。
17 江差鮫踊り
(資料提供:北海道江差町郷土資料館)
ニシン漁の邪魔となったサメを駆除していた漁民が、サメの霊を慰めるために行っていた民俗芸能。太鼓や笛など、派手な出囃子も特徴的です。
18 江差追分
ニシン交易で江差へやって来た船乗りたちによって伝えられたという民謡。信州の追分節が元とされ、独特の哀調を帯びています。北海道指定無形民俗文化財のひとつです。
→江差追分について詳しくはこちらも参照
19 江差追分踊り
(唄:寺島絵里佳)
江差追分に合わせて踊られる芸能。江戸時代末、江戸から興行でやって来た歌舞伎役者によって振り付けられたとされています。
20 江差三下り
(資料提供:北海道江差町郷土資料館)
ニシン交易で江差へやって来た船乗りたちによって伝えられたという民謡。江差沖揚音頭などと共に、北海道指定無形民俗文化財のひとつです。
21 姥神大神宮渡御祭
(写真提供:江差町追分観光課)
姥神大神宮の祭礼。江戸時代から伝わり、蝦夷地最古として北海道を代表する祭りのひとつです。
22 姥神大神宮祭礼山車松寳丸及び附属品
(写真提供:江差町追分観光課)
姥神大神宮渡御祭に出される山車。江差では「だし」ではなく「やま」と呼びます。1845(弘化2)年、交易船をかたどって作られました。
23 姥神大神宮祭礼山車神功山人形及び附属品
(写真提供:江差町追分観光課)
姥神大神宮渡御祭に出される山車に載る人形。1751~1764年の宝暦年間に作られ、神功皇后をかたどっています。
24 江差餅つき囃子
ニシン交易で繁栄した商家が年末に行っていた餅つきの様子を伝える民俗芸能。北海道指定無形民俗文化財のひとつです。
25 三平汁
(写真提供:江差町追分観光課)
豊富に獲れたニシンを用いた郷土料理。塩漬けや糠漬けにしたニシンをたくさんの野菜と共に煮たもので、滋養たっぷりのおいしさです。
26 ニシン漬け
(写真提供:江差町追分観光課)
豊富に獲れたニシンを用いた郷土料理。身欠きニシンと、キャベツや人参などの野菜を麹と共に漬けて作ります。
こうして26もの文化財をひとつひとつ見ていくと、ニシン漁の繁栄がいかに江差の町並みをつくり、文化を育てていったのかが、よく分かります。
北海道では他に、今年2018年5月24日に、上川町や旭川市などが申請した「カムイと共に生きる上川アイヌ~大雪山のふところに伝承される神々の世界~」というタイトルのストーリーも、日本遺産として認定されました。認定により、改めてその歴史に思いを馳せるきっかけとなれば素晴らしいことです。
取材協力
所在地:北海道檜山郡江差町字中歌町193-1
電話:0139-52-1047