アイヌ伝説に残る新得町屈足のシンボル「カムイロキ」って何?

十勝管内新得町屈足。ここを流れる十勝川上流部の左岸にのみ、ひときわ目立つ崖が続きます。地元では「クッタリガンケ」「十勝川ガンケ」と呼ぶ大岩壁。その中でも、アイヌ伝説に残るポイント「カムイロキ」は「神の座」という意味を持ちます。この絶景を望む露天風呂付き温泉施設まで誕生しました。

今回は、十勝川ガンケ(崖)、カムイロキの景観を紐解きます。

狩勝峠からも見える十勝川ガンケ

狩勝峠から眺望する帯状に連なる河岸段丘、十勝川ガンケ

日高山脈を越える狩勝峠頂上。広大な十勝平野を一望する観光スポットの一つです。よく目を凝らしてみると、平野の中を横切るように帯状の崖が続いていることがわかります。これが、屈足地区の十勝川上流左岸に約4キロにわたって続く十勝川ガンケ(崖)です。

狩勝峠と十勝川、ガンケ、カムイロキの位置関係図

川の右岸部は平坦な土地が広がりますが、川の左岸部には急斜面の崖にむき出しの岩肌が所々に見られ、その裾を十勝川が流れています。ガンケ(崖)の上には階段状にまた別の平坦な土地が続きます(美蔓台地、屈足高台)。実はこのガンケ、人工的なものではなく、100万年以前の火砕流の堆積土が十勝川の浸食によって出現したものなのです。

十勝川ガンケ上流部のくったり湖の空撮

蝦夷地御用御雇(えぞちごようおんやとい)の松浦武四郎は江戸時代末期の1858年(安政5年)3月14日、6回目の蝦夷地調査で空知川上流部から狩勝峠から十勝を眺望。このとき、十勝平野の中でひときわ目立つガンケ(崖)に注目し、ここを目標に歩いたとされています。

徳川幕府に報告した『戊午東西蝦夷山川地理取調紀行十勝日誌』によると、「本川(十勝川)の幅およそ50間(約90メートル)、崖は高さ数十尋(約100メートル)、赤石混ざり、頂き平に崩れており、川は渦を巻きて吼々として大波たて流れ、峨々たる岸壁の灰白色なる大岩の半腹(中腹)に洞穴あり、これには昔より神霊宿ると言い伝えあり。よって此処へは行くこと出来ない。此処より木幣(イナウ)を奉り礼拝するとかや。案内のアイヌ人、この地をカムイロキと伝えり。この風景実に筆紙に及ぶ処にあらず」と絶賛しています。

今では、人造湖のくったり湖であるため、大波をたてて流れる十勝川本流は見られませんが、ダムもなかった時代の十勝川は荒々しい風景が見られたのでしょう。

神の座と呼ばれたカムイロキとは

『十勝日誌』にもある通り、松浦武四郎一行は十勝川ガンケの一角である「カムイロキ」という地をアイヌの案内人に紹介されました。「カムイロキ」はアイヌ語で「熊の越年するところ」または「神様がお座りになるところ」という意味があります。

カムイロキの秋の風景(案内板付近から)
カムイロキの冬の風景(案内板付近から)

先の『十勝日誌』の記述によれば、アイヌの人たちはここを神聖な場所の一つとして扱い、人は近づいてはいけない場所とされました。崖の岩の中腹にあった穴には神霊が宿っていて行けず、木幣(イナウ)を奉っていたということです。

同じ『十勝日誌』には、アイヌの伝説としてこんな記述があります。「昔一人がこの岸壁の上から綱を下げ、それを伝って穴に入ったことがあったが、帰ってこなかった。その子も同様に試みたが、その子も戻ってこなかった。それ以来、洞穴に入ることは禁じられている」。

このほかにも、アイヌの伝説にはフレウという巨鳥が住んでいたとの話も残されています。今でもここカムイロキはパワースポットの一つとして親しまれています。

くったり湖の湖畔にカムイロキを望む温泉も

くったり湖畔のカムイロキ(案内板から)

ガンケ(崖)は南北に連なっているため、約9.5キロにわたって十勝川を渡る橋が架かっておらず、東西の行き来には大きく迂回する必要があります。

十勝川ガンケの上流部には、ダム湖「くったり湖(屈足湖)」と屈足ダムがあります。1995年に竣工したダムによる、南北に細長い人造湖です。カムイロキは、その「くったり湖」にあります。1993年3月には、新得町教育委員会・新得町郷土研究会により「カムイロキの地名由来」の案内板が湖畔に設置されました。

カムイロキの地名由来の案内板

看板のある場所は、「湯宿くったり温泉 レイク・イン」。天然温泉の露天風呂やレストランからは、アイヌ伝説の地となったカムイロキと くったり湖を見ることができます。

十勝川ガンケをバックに、くったり湖畔に佇む「湯宿くったり温泉 レイク・イン」

このカムイロキがあるガンケを舞台に2013年から毎年夏に開催している野外フェス「GANKE FES」もここ、「くったり温泉 レイク・イン」を会場に行われてきました。また、自然豊かなくったり湖ではカヌー、ラフティングなどアクティビティも楽しまれています。

参考文献:『新得町史』『しんとく歴史散歩』