天井も壁も見えないほどに おもちゃやメンコ、ブロマイドなどでびっしり埋め尽くされたこのお店。実は、道産の魚介類を格安で提供している居酒屋さんです。はじめて訪れた人は「店を間違えたかな?」と戸惑うことも多いのだそう。
この「大漁居酒屋てっちゃん」が、札幌国際芸術祭2017(SIAF2017)の参加アーティストに選ばれました。なぜ居酒屋が芸術祭? なぜ壁一面におもちゃやメンコなの? 気になるアレコレを伺ってきました。
おもちゃやブロマイド、メンコ類がところ狭しと並ぶ
「大漁居酒屋てっちゃん」は、約30年前にこの場所に誕生しました。オーナーの阿部鉄男さんは以前、お金のない学生にお腹いっぱい食べてもらいたいという思いではじめた居酒屋「若者とフォーク」をやっていましたが、より多くの世代が楽しめるお店にしたいと、このお店のオープンに至りました。
▼オーナーの阿部鉄男さん(68歳)
「オープンするときに漁師のイメージから、店に砂浜を作り舟を飾ろうと思っていたのです」と仰天のプランを考えていた阿部さん。舟を注文してから、そこでようやく料理店で砂はまずいなと気づいたのだそう。「舟は注文しちゃったからどうしようもなくって小上がりに飾ることにしたんです。客席数が減っちゃいましたけどね(笑)」(阿部さん)
▼舟が鎮座する小上がり
誰もが店に来て驚くのが、隙間がないほど飾られたおもちゃやメンコやブロマイド類でしょう。「メンコをたくさん持っていて、それを壁に貼っていったのがはじまりですね」と阿部さん。なぜ壁に貼りだしたんですかとお聞きすると、「前にやっていた若者とフォークでは、レコードのジャケットを貼っていたんです。元々貯めたり貼ったりするのが好きなんです」。
舟を小上がりに置き、漁師っぽいイメージを出すために天井に網を貼り、そこが寂しいからおもちゃなどをぶら下げたのも、同じように飾るのが好きだから。あれやこれやと飾っているうちに今のようになったのだそうです。
▼天井に網を貼り、そこからおもちゃをぶら下げている
「性格なのかな。メンコを貼りだしたら、隙間が見えるのが気になりだしてね。隙間を埋めるために、骨董品店に通って安くてめずらしいものをいろいろと探していたら、そのうち仲良くなった骨董屋さんが『これどうかな』と持ってきてくれるようになって。だから集めるのにそれほど苦労はしなかったね」と阿部さんは言います。
現在は、色あせたり汚れたものを変えるぐらいで、新しく何かを飾りたいという気持ちはないと教えてくださいました。つまり、店はこれでほぼ完成形ということなのでしょう。
札幌国際芸術祭2017参加アーティストとして
そんな「大漁居酒屋てっちゃん」が札幌国際芸術祭2017の参加アーティストとして選ばれました。札幌国際芸術祭2017 アーティスト紹介のページでは、「『てっちゃん』こと阿部鉄男さんが20年の歳月をかけて店内を埋め尽くしたコラージュ空間は圧巻。トイレの水槽コラージュ&アッサンブラージュも必見で、世界中を探しても唯一無二な空間です」
と紹介されています。札幌国際芸術祭2017では、レトロスペース坂会館と合わせて、この2つのアート空間を「札幌の至宝」として紹介しています。
▼トイレには5つの水槽が。なんと中には生きた魚も!
このお店の常連に、札幌国際芸術祭2017の企画メンバーのひとり、札幌市立大学の上遠野敏先生がいました。ゲストディレクターの大友良英氏にこんなおもしろい店があると推薦してくれたのが、選ばれた理由なのだとか。阿部さんに選ばれた感想をお聞きすると、「すべてが芸術に繋がるんだなぁ。このお店は芸術という面からするときっと底辺なんだろうけど、そこからなにかが広がっていけばいいことなんじゃないか、札幌のPRにもなるしね」とうれしそうに答えてくれました。
▼飾り付けで埋もれたエレベーターの扉。オレンジ色のポスターが貼ってある左部分ですが、わかりますか?
札幌国際芸術祭2017の開催期間中は、営業時間以外にもお客さんが入れるようにして、少しでも見ていただけるようにするとのこと。「自分からは何もできないけど、この店がちょっとでも芸術祭の宣伝になればいいかな。一市民として協力できればと思ってます。でも、できることなら食べに来てね(笑)」と阿部さんは語ってくれました。
格安で食べられるおいしい料理に舌鼓
最後に「大漁居酒屋てっちゃん」で食べられるメニューを紹介しておきましょう。
まずは、来店するお客さんほとんどが注文するという大漁舟盛。20種類の刺身が山盛りになっています。これが1人前1,500円(税別)ということに驚かされます。
▼見えないところにもお刺身がいっぱいの大漁舟盛。写真は2人前
もちもちの皮にたっぷりの具が入った「てっちゃん手作り餃子」。そして、鮭のカマを燻製にした「鮭カマくん」。どちらもビールやお酒がすすむこと間違いなしのメニューです。てっちゃん手作り餃子が550円、鮭カマくんが450円(どちらも税別)です。
▼肉と野菜がぎっしり詰まった「てっちゃん手作り餃子」
▼「鮭カマくん」は期間限定なので要注意
「あと6年ぐらいで店を閉めようと思っていてね」。
取材の最後に阿部さんが呟きました。理由をお聞きすると、「元々働くのが好きじゃないからね(笑)。現在組んでいる冷蔵庫のリースが終わったら辞めるつもりなんだ」(阿部さん)。
そう言いながらも阿部さんは、毎朝4時に市場に行って1日分の仕入れをし、それから開店時間までずっと仕込みをするという毎日を送っています。取材中ずっと鳴り続ける予約の電話。なかなか予約が取れないお店ですが、ぜひこの摩訶不思議な空間で阿部さんの料理に舌鼓を打っていただきたいものです。
札幌市中央区南3条西4丁目 カミヤビル7F
電話:011-271-2694
営業時間:17時~22時
定休日:日祝+卸売市場休業日
札幌国際芸術祭2017(SIAF2017)
開催期間:2017年8月6日~10月1日
公式サイト:http://siaf.jp
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